両手いっぱいの星空を、きみと｜リアクション

両手いっぱいの星空を、きみと

　折角の観測会。それも学校でできるのならと、八神修は趣味の写真を楽しむために専門道具を車に積んだ。本来なら、ここには愛しい彼女も座る予定だったのだけれど、友人と一緒だからと遠慮されてしまったのだ。
　まあ、交友関係の広い彼女のことだ、そんなこともあるだろう。
（……広い、な）
　機会があれば送迎を申し出て一緒に乗ることもあったこの車が、夕暮れのせいだろうか。今日は少し違う様相に感じた。

　カメラは設置さえ済ませれば自動で撮ってくれる。暫くは夜空を眺めていた修だけれど、彼女は友達と楽しんでいるだろうかと気になって……学校だし悪戯するような人も出ないだろうとカメラを見て。先生達への挨拶も兼ねて屋台でも見て回ろうかと思った修は、思ってもいなかったものを見かけた。
　友達と楽しい時間を過ごしているはずの七夜あおいが、少し困ったようにグラウンドの隅に腰掛けているのだ。
「あおい、一人みたいだけど……何かあった？」
「修君！　それが……」
　端的に言えば、彼女の友達であり修の1年時の級友である野々ののこが、問題行動を起こして職員室へ連行されてしまったらしい。
「だから校舎の探検なんて止めようって言ったのに」
「それは……うん、あおいが気に病むことじゃないよ」
　とは言っても、友達がこってり絞られているとわかっていて、暢気に遊べるようなタイプの子ではないだろう。それでも、友達が戻るまで一人で過ごすと言うなら。
「……同じ待つなら、一緒にいないか？　学校とはいっても夜だし、天体観測の準備もしてるんだ」
「えっ、天体観測の？」
　「こんなに大きいやつじゃない？」と両手を広げるものだから、「そこまでではないかな」なんて苦笑したりして。
　こんなに星が綺麗な夜なのに、彼女を浮かない顔で過ごさせたくない――というのは本心だけど。今はちょっとだけ星空が恨めしい。
　雨でもいつでも、彼女を笑顔にできる自分でありたいから、星空を理由にしなくても一緒にいられればと……そう、思ってしまうのに。興味を惹いたのは天体観測のほうだったようだ。
「野々と少しは夜店巡りできた？」
「うんっ！　缶倒しとかゲームをね。ののちゃんったらね」
　並ばず買えそうな食べ物を買い足して、シートへご案内。変わらず動作しているカメラにホッとして、紅茶の準備をする。
　夏だけれど夜ともなれば冷えるだろうとポットで淹れた紅茶を用意する。……とはいっても、校内に火気を持ち込むわけにはいかないので、酸化しづらく冷めにくい構造のボトルでの提供になってしまうけれど。
「熱いから気をつけて」
「ありがとう！」
　流星はちらほらと走っているけれど、降り注ぐほどの流星群かと聞かれれば、まだそうじゃない。
「あおいはお願い事決めてるの？」
「餌をあげてる猫たちが夏バテしませんようにとか、それから……」
　あれも、これもととりとめもない願いを口にしては「贅沢かなぁ」と苦笑する。神社に詣でるときは、ゆっくりできないこともあるから願い事は絞った方が良いかもしれないけれど。
「大丈夫だよ。例えば、ペルセウス座の流星群って1時間でどれくらい流れるか知ってる？」
「うーん……1分に1個くらいで60個とか？」
「おしい。条件にもよるけど、80個以上は観測できるって言われているよ」
　今日のこの場所で、どれほど観測できるかは保証できないけれど、彼女がささやかなお願い事を両手で足りないほど望んだって事足りるはずだ。
「お願い事が足りなくなっちゃうね」
　そうやって無邪気に笑う彼女が――できれば、自分と同じ素敵な夢が今夜見れますようにと、修はそっと願った。

このページにイラストを設定する