両手いっぱいの星空を、きみと｜リアクション

両手いっぱいの星空を、きみと

　個人的に眺められればと思っていた流星群も、誰かと見れば景色は変わるだろうか。
　その「誰か」と思い至ったとき、自然と思い浮かんでしまうのは七夜あおいで。それは今回の観測会が学校だからかなと、心の中で弟妹に謝ってみたりして。
　夏の夜のピクニック気分で彼女が楽しんでくれたらいいな――という気分で鴻上彰尋は通い慣れた道を歩み寝子高のグラウンドまで来たのだけれど。
　あおいは、野々ののこと缶倒しを競い合っているところだった。『友達』に見せる豊かな表情が微笑ましくて、ずっと見守っていたくなる思いと。まだ、自分もその距離なのだろうかと、ほんの、ほんの少しだけ針の先が心の表面を撫でた気がした。
（……邪魔するのも悪いかな）
　観測会の感謝を込めて、自分も出店を見て回ろう。踵を返して、そう多くないテントを端から眺めていると、鞄をくいっと引っ張られる。あおいが、さっきまでの楽しそうな笑顔とは違う笑みを見せてくれた気がした。
「やっぱり彰尋くんだ！　一人？」
「……うん、遅くなるかもしれないから、二人は留守番」
　君と星を見たかったから、と言えば焦らせてしまいそうで言葉を飲み込む。
　――二人で星を眺められたら、それだけで幸せなのは事実だけど。
「そういえば、野々さんは？　一緒に来たんじゃ？」
「夜の校舎を探検したいって……私は怒られるの嫌だからグラウンドで待ってるって言ったの」
　あおいがののこと仲が良く、破天荒っぷりに振り回されているのは知っているけれど。
　今日は、それに感謝してもいいだろうか。
　一緒に探しに行こうと、彼女の友達を心配しなくていいだろうか。
「じゃあ、待ってる間……一緒に見てまわらない？」
「そうするっ！」

　二人でスターフルーツを頬張って、金平糖つかみで勝負をして。
　多くない出店を回って一息つく頃には、星が流れたとかまだだよって声が聞こえてきた。
　混み合わないスペースにレジャーシートを敷いてアイスティーを準備すれば、あおいは「わぁっ」と驚いたようにカップの中を覗き込む。
「果物を凍らせたの？」
「そう、缶詰だけどね。氷を入れると紅茶も薄まっちゃうし」
　紅茶自体を凍らせれば分離することもあるし、溶けない氷を使うのも自宅ならともかく持ち運びには不向き、であればいっそ果物を凍らせた方が保冷ができてフルーツティにもなる。そんな彰尋の発想に、あおいは感心しきりだ。
　喜んでくれるなら、ちょっとしたものが用意できて良かった。そう思ったとき、夜空に一筋の光。
「あ、今流れた」
「ええっ、見えなかった。どのあたり？」
「向こうの……この辺りかな」
　夜空に丸を描けば、あおいはわくわくと覗き込む。
　いつまでも見ていたいくらい、キラキラした笑顔。
（そうだ、）
　ちょっと思い至って、眺めるのを我慢して。柄じゃないかも知れないけれど、せっかく舞台もあることだから。
　間に合え、と小瓶をたぐり寄せる。
「見えた！　ねぇ彰尋くん、今の見た？」
「うん、見てた……あおいさんの所へ落ちたでしょ？」
「……？　落ち、た……ああっ！？」
　星が流れる間際、お土産のつもりだった金平糖を拝借して、彼女のコップへ数粒落としてみた。
　この日が彼女の素敵な思い出になればいいなと思って、恥ずかしさは芝居がかった口調で誤魔化して。
　でもやっぱり、何度もコップと顔を見返されると苦笑いが浮かんでしまう。
「お願い事はした？」
　ちょっと流れを変えようと、話題を逸らす。
「……流れてる時じゃないと、お願いできないかな？」
　けれど彼女はコップを揺らしながら、まだ金平糖を見つめていて。
　彼女を呼び出す電話が鳴るまで、少し気恥ずかしかった。

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