猫又川納涼床でひ～んやり｜リアクション

猫又川納涼床でひ～んやり

●大好きな先生と涼しい時間を

　愛らしい浴衣姿の宮祀智瑜は、慣れない履物で歩いていたこともあってか転びそうになった。
　このまま転ぶの！？　と思ったが、寝子高生達が必要以上にハメを外さないよう見回りに来ていた桐島義弘先生に受け止められた。
（ここで義弘先生と出会えたのは運命です！）
　一緒に納涼床で料理を食べたり、お話して過ごしたい。
　受け止めてもらったお礼をしたいので、ご一緒しませんかと誘う。
　少しだけなら、とお誘いに応じてもらえたので、智瑜は嬉しかった。
　また転びそうにならないように……と慎重に歩く智瑜を見て、桐島先生は足をくじいたのかと気になった。
「宮祀、大丈夫か？　足が痛むなら診てもらうか？」
「だ、大丈夫です。痛くないです」
　そう言って、小走りで先を進む智瑜を見て大丈夫そうだと安心する桐島先生。
　納涼床を訪れる人々を見ながら、先生とデートに見えるかな？　となんて考えてしまう智瑜を見て、納涼床を楽しんでいるようだと桐島先生は思う。
「納涼床って涼しくていいですね。川のせせらぎも心地よいです。先生はこういう場所ってよく来るんですか？」
　見回りでなく、プライベートでですよ、と付け加えて尋ねる。
「見回り以外で来ることはない」
　予想通りの答えが桐島先生らしい。
　そう言っているそばから、寝子高生の集団が羽目をはずしているのを目撃したので注意しに行った。

　まったく……とため息をつきながら、桐島先生が戻って来た。
「待たせたな。行こうか」
「はい。私、義弘先生の浴衣姿が見てみたいです。浴衣を着て、寛いでる姿が似合いそうです」
「そうか？」
　似合いそうと言われて悪い気はしないが、先程のように羽目をはずした生徒に駆け寄るには今着ている格好がいい。
　見回りもあるから、浴衣は遠慮しておくと答えたのは桐島先生らしい。

　河川の縁に設けた座敷に着くと、２人は何を注文しようか話し合う。
「私は『子猫の海水浴』にします。先生は何にしますか？」
「涼しそうな和菓子だな。なぜ、それにした」
「メニューを見て一目ぼれしたからです。子猫が可愛いですし」
　では、それを。と桐島先生は子猫の海水浴と冷たい麦茶ふたつを注文した。　

　頼んでいた子猫の海水浴が運ばれてくるなり、智瑜はスマホで写真撮影を。
「水着で泳いでる姿のフィギュアが可愛いっ！　先生、見てください。すっごく可愛いですよ」
　これはコンプリートしたくなりますね、とサーフパンツ姿で泳いでいるキジトラ猫のフィギュアを見せる。
「寒天の海で泳ぐ猫か。面白い作りだ」
「ですね」
　興味を示してくれて嬉しいと思いつつ、智瑜は水色の寒天の和菓子をゆっくりと食べ始める。
　フルーツと寒天が甘すぎずといった味わいの和菓子を、崩さないよう慎重に。
「義弘先生、これ、デザートにどうですか？」
　バレンタインのチョコを食べてもらったので、甘いものは苦手ではなかったはず。
　そう思い、桐島先生に子猫の海水浴を勧めた。
「たまには、こういう菓子を食べるのもいいな。ひとついただこう」
　生徒の勧めとあらば、ということで、試しに食べてみることにしたようだ。

　桐島先生の子猫の海水浴のフィギュアは、シュノーケル、マスク、フィンをつけた白猫の子猫だった。
「これ、いるか？」
　智瑜にそれを見せ、欲しいかどうか聞く。
「いいんですか？」
「誘ってくれたお礼だ」
「ありがとうございます！」
　このフィギュアは、今日の記念ということで智瑜の宝物に。

　桐島先生とデート気分が味わえたので、智瑜は楽しかった。
　またこういう機会があればと願う彼女の頬に、涼しいそよ風があたった。

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