猫又川納涼床でひ～んやり｜リアクション

猫又川納涼床でひ～んやり

●大切にしたい時間

　八神修と七夜あおいが選んだ場所は、飛び石の先にある木陰の川床。
　慣れない和装ということで、汚さないよう、あおいは気をつけて移動しているので修はしっかりサポート。
　修が手を差し出すと、あおいは気持ちを察してスッと取りゆっくりと歩く。
　履きなれた靴とはいえ、衣装が少し重いので普段着と違う思うようにいかない。
　よろけた拍子に転びそうになったので、修はすかさず受け止めて阻止する。
「ありがとう」
「どういたしまして」

　川床に着くと、何を頼もうかと注文を相談する。
「俺は子猫の海水浴と抹茶のセットにしよう。あおいは何にする？」
　メニューを見て悩んでいたが、あおいも子猫の海水浴と抹茶のセットにした。
「抹茶はラテでもグリーンティーでも良いんだね。俺は口直しをするために普通の苦いやつにしたけど」
　抹茶について話しているうちに、子猫の海水浴と抹茶のセットが運ばれてきた。
　フルーツいっぱいの水色の寒天の海に、あおいは見惚れていた。
「なんだか食べるのがもったいないな。でも、美味しそうだし……」
　どうしようと悩むあおいに、もうひとつ頼もうかと修が追加注文をした。
「いいの？」
「ああ。この子猫、可愛いな。集めたくなるなあと思ったから」
　
　子猫の海水浴を食べ終えると、互いの子猫のフィギュアを見せ合う。
「俺の子猫はこんなだよ。可愛いね」
　修のフィギュアは、白地に青いドット柄の浮き輪を付けた茶トラの子猫。
「私はこれ」
　あおいのフィギュアは、貝殻ブラをつけた下半身が魚の人魚なサバトラの子猫。
「この子達、出窓に並べたいな。でも、そんなに食べられないよ」
　苦笑しながら、入手したフィギュアだけで我慢しようかということにした。

　２人から離れたお座敷に座りながら、響タルトは弟はどうせフィギュアはいらないだろうから僕がもらおうと考えていた。
　10種類程度のバリエーションがあるということなので、10個購入した。
「運が良ければコンプリートできるかもしれないね？」
　コンプリートしたいのはやまやまだが、買いすぎてしまうと予算不足になりそうで怖い。
「面白かった！　今度は友達も誘って来ようかな」
　タルトは子猫の海水浴をいただきながらそう思った。
　寒天の中にいた猫は、白地に黒横縞の囚人服のような水着を着て平泳ぎをしていた。
「レトロな水着だねー。他には何があるのかな？」
　残りは家に帰ってからのお楽しみということにして、今、食べている分をじっくり味わうのだった。

「心地良い……時間を忘れそうだ」
　涼しい場所で好きな子と過ごす時間が過ぎるのは、とても早いように思えた。
「勉強のほうは大丈夫？」
　修が時間を気にしているように見えたのか、あおいは心配になったようだ。
「大丈夫、今日の勉強はすませてあるよ。夏が勝負だもんな。あおいも、のんびりできた？」
「うん、できたよ。今日は誘ってくれてありがとう。勉強、頑張ってね」
　柔らかく微笑み、あおいも頑張ってと応援した。
　明日になれば、また勉強等で忙しくなる。だから今は、この時間を味わおう。
　涼しい風に吹かれながら、このひと時を大切に過ごそう。
　あおいの楽しそうな表情を見て、そう決めた修だった。

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