南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！｜リアクション

南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！

　少し離れたところでは水泳部の指導の元、一年生がクロールの練習に励んでいる。
「フォームはどうかな」
　泳ぎ終えた篠原翠響は水泳部の一人に意見を求めた。
「手と足が上手く連動して速度は悪くないわ。あとは遠泳に必要な持久力ね」
「それなら任せてよ。新体操で走り込みの練習はしているからね」
「遠泳の経験はあるの？」
「ネックはそこなのよ。だから少し不安になって」
　海水で濡れたポニーテールを絞りながら苦笑いを浮かべる。
「プールと違って波があるから息継ぎの練習を重点的にしてみようか」
「あ、それは嬉しいかも。今から見て貰えるかな」
「いいよ。少し遠くで泳いでみようか。実戦を踏まえて」
「よろしくね」
　二人は平泳ぎで静かな海に移動した。そこでクロールによる息継ぎの練習を入念に行った。
　月原想花は波打ち際に立っていた。遠泳に備えるクラスメイト達を見て下唇を噛み締める。一歩を踏み出し、また元の位置に戻る。散々、悩んだ末にようやく眼鏡を外した。
「見えないんだよ」
　泣き言に近い声を漏らす。
　眼鏡を砂浜に置くと海に向かって刻むように歩き出す。腰の辺りまで海水に浸かった状態で軽く飛び出し、手足をとにかく動かした。激しい飛沫を撒き散らして立ち上がると後ろを振り返る。
「どれくらい泳いだのかな。よく見えないんだよね」
　情けない笑みでまた暴れる。進んでいる実感を得られない状態でがむしゃらに手足を動かした。
　桜は二年生の一部を受け持つ。集まった生徒達は泳ぎの基本が出来ていることもあって長距離に適した泳ぎ方を中心に教えた。
「長距離に必要なのはスピードではなくてスタミナね。今から持久力を高めることは難しいからスタミナ配分について教えるわ」
　細かい注意点をわかり易い言葉で伝える。途中の質問にも丁寧に答えた。
「実践に移るわ。皆、海に入って」
　生徒達は次々に海へと入る。最後に桜が入って各個人の泳ぎをしっかりと見た。一定の距離で止めて声を掛ける。
「そんな感じでいいよ」
　次々に泳ぎを見ていく。その中で一人の女子に近づいた。
「序盤のペースにしては少し早いわ。もう少し身体の力を抜いて泳ぐとスタミナ切れを回避できると思うよ」
「わかりました。気を付けて泳いでみます」
　桜の指導は滞りなく行われ、生徒達の士気は高い状態で持続した。
　一通りの練習を終えると桜は個々に笑みを見せる。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました！」
　労う声にそれ以上の声が返ってきた。桜は満更でもない顔で穏やかな海を眺めた。