南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！｜リアクション

南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！

　浮かれた生徒達も時間と共に冷静さを取り戻していった。吉田熊吉の目もあり、全員が砂浜に整列した。
　生徒達を前にして水泳部員が横一列に並ぶ。中央にいた雨崎荒太郎は柔らかい笑みを浮かべた。
「ぼくは水泳部の部長の雨崎だよ～。水泳部のみんなが色々と教えるよー。わからないことがあったら何でも聞いてねー」
　どこか緩い話し方ではあったが生徒達は真面目に聞いた。
　桜井ラッセルは意欲を見せて手を挙げる。
「ラッセルくん、何か質問かな～」
「マジで水泳教室あって助かる。先生、今日はよろしくお願いします！」
　太腿に両手をぴったり付けた状態で深々と頭を下げた。ささやかな笑い声が起こる中、荒太郎は逆に表情が強張った。
「そこまでしなくてもいいというか～。すごいプレッシャーなんだけどー」
「先生、頑張りましょう」
　横手にいた水上桜の駄目押しで場は一気に和んだ。
　間もなくしてストレッチが始まった。荒太郎が手本を見せて全員が続く。水泳部の部員達が厳しい目で生徒達のチェックを行う。
　アキレス腱の伸ばし方が不十分と判断した荒太郎はよく通る声で言った。
「ストレッチは地味で面倒だと思うけどー、大切な行動なんだよねー。水泳は楽そうに見えるけどー、思った以上に身体に掛かる負荷が大きいからー、ちゃんと筋肉をほぐしておくんだよー。怪我の防止にもなるしー、泳いだ後の疲労回復にも役立つからねー」
　真面目にストレッチに取り組む。良い運動になるのか。誰もが身体に薄っすらと汗を掻いた。朝陽を浴びて全身に輝きを纏う。
　全ての行程を終えた。荒太郎は爽やかな笑みで遠泳について語り始めた。
「これから遠泳の練習が始まるよー。初心者用の水泳教室もあるから、みんなのレベルに合わせて選んでねー。
　泳いでいる時の注意点は無理をしないことだよー。今回は地元のライフセーバーの方達が協力してくれるからー、溺れそうになったらサインを出してねー。
　だからと言って安心はしないで、みんなが協力して助け合おうー。ぼくも子供の時に溺れて助けられたことがあるからねー。話が長くなったけど、十分に気を付けてくださーい」
　間延びした声で話を締め括る。入れ替わるようにして先生方から注意点を挙げられ、生徒達の能力に合わせた水泳教室が始まった。
　ラッセルは荒太郎の元で学んだ。クロールの正しい姿勢を頭にしっかりと叩き込み、浅いところで実際に試すことになった。
「よっし！　まずは教えて貰ったクロールからだな」
　横波を受けながら海水を掻く。息継ぎが上手く行かず、少し飲んでしまった。瞬間、足を付けて激しく咳き込んだ。
「ラッセル君、ここは波のないプールとは違うんだよー。少し大袈裟なくらいの息継ぎでちょうどいいよー」
「そっか。つか、普通にハズイ！」
「泳ぎ始めの時はみんな同じだよー」
　のんびりとした口調に癒されたのか。ラッセルは気合を入れ直し、クロールを再開した。
　アドバイス通りに息継ぎの動作を大きくした。今度は海水を飲まずに五十メートルくらい進んで足を付けた。後ろを振り返って距離を確かめる。
「金づちがウソのようだ。これなら遠泳もいけるよな？」
　疑問符を取り消すかのように頭を振った。
「いや、いける。やらずに後悔はしねぇ！」
　漲る熱意を胸にラッセルはクロールに磨きを掛けた。

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