出動！Cinnamon Cat's！｜リアクション

出動！Cinnamon Cat's！

　明るい太陽の下、ショッピングモール内にある広場には人だかりができていた。
　彼らの視線の先は広場に設置されたステージへと向けられていて、ステージ上には煌びやかな衣装を身にまとった少女たちが、歌とダンスでパフォーマンスをしている。
　軽快なBGMに合わせて、エリナ（姫神絵梨菜）がキレのある踊りを披露すると、オーディエンスは野太い声で合いの手を入れた。
「みんな、今日は来てくれてありがとう！」
　彼女たちは、Cinnamon Cat's（シナモンキャッツ）というアイドルグループだった。メンバーのひとり、エリナは抜群のスタイルとアクロバティックな動きが持ち味だ。エリナは久々のライブイベントである今日を、楽しみにしていた。
「名残惜しいけど、次が最後の曲になります！　聞いてね！」
　観客たちのがっかりしたリアクションを浴びながら、エリナは他のメンバーたちと目配せでフォーメーションを確認する。
　その時だった。
「うおおおおおっ！」
　観客たちの中から、突然雄叫びが聞こえてきた。始めは熱狂的なファンの歓声かと思ったが、どうも様子がおかしい。
　声の主は、どこか焦点の定まっていないような目で、ステージへと近付いてくる。一歩、また一歩と距離が彼女たちへ近付くたび、周囲もその違和感に気付き始めた。
　ざわざわと騒ぎ出す観客たちをかき分けて、男はステージへ上がろうとしていた。押しのけられた女性の観客が地面に転び、その拍子にスカートがひらりとめくれあがる。なにか見えた気がしたけど、気のせいだ。
　男は手でステージの端を掴み、そのまま上がり込もうとしていた。そこに、万が一に備えていた警備員が割って入る。
「離せ、俺は女の、俺の、女が」
　男は文脈もなにもない、謎めいた言葉をわめきながら警備員に取り押さえられた。
　あっという間に散っていった観客たちと、臨時アナウンスが鳴るモール内。エリナたちはただその出来事を、ステージから見ていることしかできなかった。

◇

「もうっ、何なの急に！」
　控え室に戻るや否や、エリナが頬を膨らませた。
「せっかく久しぶりのライブだったのにっ」
　怒りが収まらないエリナに、他のメンバーが話しかける。
「ねえエリナ、さっきちらっと聞いたんだけどさ」
　話を聞くと、なんでも先ほど捕まった男の身体検査を行ったところ、違法な薬物が検出されたという情報が明らかになった。
「そういえば、若者を狂わせる危ない薬を流してるって黒い噂の会社があったような？」
「そこ、表向きは普通の会社なのに、裏では半グレ集団と繋がってるらしいよ」
　おおよそアイドルとは思えない内容の会話をする彼女たち。
　それもそのはず、彼女らはただのアイドルではないのだ。
「これは、わたしたちの出番かなっ？」
　エリナが何かの合図かのように告げると、他のメンバーたちが一斉に頷いた。
「そうと決まれば、潜入開始、だねっ！」
　エリナたちは立ち上がり、楽屋を後にした。
　そう、彼女らがアイドルとして活躍しているのは表の顔。その正体は、世を騒がせる悪人を成敗する正義の戦士だったのである。
　アイドル・Cinnamon Cat's改め美少女戦士・Cinnamon Cat'sは、潜入の準備をすべく各々の勝負服へと着替え始めるのだった。

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