パートナーは異能の猫！｜リアクション

パートナーは異能の猫！

　娘のお腹の辺りに手を当てて、ポンポンと優しく叩いていた梓智依子はハッとした。いつの間にか意識が落ちていたらしい。
　指先に娘の感触がなく、慌てて体を起こす。
「……ここは」
　そこは自宅ではなく、どこか森のような場所だった。差してくる木漏れ日が柔らかに森の中を照らす光景はいつか見た写真のようだ。
　とっさに娘の名前を呼ぶが返事はない。それどころか、人の気配がない。
　しかし、何か妙な気配を感じ、慌てて振り返った。
「……！」
　そこには猫が数匹、こちらを見ていた。野良猫だろうか。そんなことを考えていると、強めの殺気が智依子を射抜く。その瞬間、
「何！？」
　バチバチと電気をまとった猫が、地面を蹴った。勢いよく突っ込んできた。
「っ！」
　智依子はどうにか横へ避けて、転びそうになりながらも走り出した。
「どうなってるの？」
　娘もこの森のどこかにいるとしたら危険だ。
「巻き込まれたのが私だけであってほしいわ。……っ！」
　電気猫の突進の威力が強い。
「シャッ」
　短い鳴き声。再びギリギリで避け、近くにあった小屋へと転がり込む。ドアを閉めて、背中をつける。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
　息を整えていると、小屋の中にはテーブルがあり、いくつかの箱が置かれていた。
　謎の小屋の主は、この危険な猫が生息する森から逃げるために、パートナーをくれるとのことだった。
　手紙は怪しいが、襲ってきた電気猫は殺意に満ち溢れていた。選ぶしかないだろう。
　智依子は深呼吸をして、雪の結晶の模様が施された箱へ手を触れる。すると、
「にゃにゃん！」
　箱の蓋が開いて、全身ライトブルーの体毛で覆われた猫が飛び出してきた。尖った耳と尻尾だけは白、雪と氷を思わせる猫だ。
「にゃーん」
「！　よろしくね」
　すり寄ってきたので軽く頭を撫でてやる。嬉しそうだ。
　名前はフリスノー、氷猫である。
　と、小屋の扉が勢いよく開いた。
「しつこいわね」
　フリスノーがテーブルから飛び降りて、電気を纏った猫と対峙する。
「フリスノー、凍結よ！」
　氷猫が、口を開く。キラキラとした霧が電気猫へと発射される。
「やった？」
　霧が直撃した電気猫は薄い氷の膜で覆われており、動かなくなっていた。しかし、すぐにヒビが入り始める。
「逃げましょう」
　氷猫と視線を交わし、小屋の外へと飛び出る。
　出口の方向は感覚で分かる。走り出した。
　しかし、
「にゃっ」
　並走していた氷猫が強い風に煽られて、横へふっ飛ばされたのだ。
「え」
　振り返ると、かまいたちのような風を纏った風猫がこちらを威嚇してきていた。
（確か、弱点の猫よね）
　まともにやり合うのは不利だろう。
「！」
　刃物のような風が智依子に向かってくる。冷静に横へ避けると、地面が抉られてしまった。
「フリスノー」
　呼びかけると、フリスノーは身体をぶるっと震わせて立ち上がった。智依子は駆けながら手を伸ばす。
「にゃっ」
　腕に飛び乗ったフリスノーはしなやかな動きで智依子の肩へと移動する。
「怪我はない？」
「にゃ」
　とにかく風猫から距離を取る。と、木の枝の上に炎をまとう猫がいるのが見えた。出口の光が見え始めた。
「行ける？」
　肩の氷猫へ視線を向けると、しっか。頷いたのが見えた。
「行くわよっ」
　智依子は氷猫の後ろ足を手で押し上げ、
「いけっ」
　炎猫目がけて跳躍させた。
氷猫はくるくると身体を回転させながら「凍結」の技を発動。
　炎猫が炎を吐く前に、木ごと凍結させる。落ちてきた氷猫をキャッチした智依子は、出口へと走っていく。
「お別れ、かしら」
「にゃにゃ！」
「ありがとう」
　氷猫を地面に下ろし、智依子は光の中へと飛び込んで行った。

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