火曜日の屋上｜リアクション

火曜日の屋上

　放課後、屋上にやってきた修子は、すぐに桐島に事情を説明しようとしたが、修子と桐島の間を、障害物が何度も通って会話にならなかった。
　秋吉とロベルトが、また反復横跳びをしていたのだ。
「あははっははは」
「うふふふふふふ」
　修子がどかそうとするが、むしろ四月とそのドッペルさんに「邪魔！」とどかされてしまった。
　まだ理性の残っている桐島は修子の話を聞こうと耳を傾けるが、目の前には秋吉、ロベルト、四月、ドッペルさんという４人の顔が出たり入ったりで忙しなく、全く頭に入ることはなかった。
「あははっははは」
「うふふふふふふ」
「えへへへへっへ」
　気がつけば彼らは、桐島の前に縦に並んで中腰の姿勢をとっていた。
「どういうつもりだ？」
　と、どこからともなくダンスミュージックが聞こえてくる。
　先頭のロベルトはぐるんぐるんと上半身をまわし始めた。
　その後ろの秋吉も四月も、少しずつタイミングをズラしながらぐるぐるまわっていく。
　よくあるダンスユニットのアレだ。
「……」
　桐島は、自分と戦っていた。
　自分の中の不思議な欲求と戦っていた。
「落ち着け……素数を数えるんだ。いち、さ……」
　桐島は負けた。
　変人ダンスユニットの先頭に立つと、上半身をぐるんぐるんとまわしはじめた。
「あははっははは」
「うふふふふふふ」
「えへへへへっへ」
「おほっほほっほ」
　なんということだろう。あの桐島先生が、満面の笑みでぐるぐるまわる変人ユニットに取り込まれてしまった！
　修子はもう、状況を見守るのが精一杯だった。
　そして、ダンスが終わった。
　ダンスユニットが縦に並んで中腰の姿勢を維持したまま、静寂が訪れる。

　パチパチパチパチ！

　猛烈な拍手で駆け寄ってくるのは、先生を探しにやってきた智瑜だ。
「先生のこんな一面を見られるなんて、私幸せです！！」
　桐島は中腰のまま、にやり。
　と、そのときだった――

　ビリッ。

　桐島のズボンのおしりが破れた。
「おおお～」
　そのままの姿勢で天を仰ぐ桐島だが、智瑜はすかさず背後にまわった。
「大丈夫です！　裁縫セットなら持ってますから」
　智瑜は桐島のおしりをさわさわしながら、ズボンに針を入れていく。
「おしりを刺してしまうかもしれませんが、きっと大丈夫です！」

　ブスッ。

「う、ぐう～」
「先生、静かに！」
　神魂の影響でおかしくなっている智瑜に、冷静な判断は難しい。
「大丈夫です！　先生のおしりは私が守りますから！！」

　ブスッ。

「う、ぐぅ……」
　と、苦悶の表情を浮かべる桐島の表情が、一転して真っ白になった。
「せ、先生！　どうしてこのような姿に～！！」
　桐島は頭からスーパーのビニール袋をかぶっていた。
「先生～！」
　桐島のおしりに顔を埋めて泣き崩れる智瑜だったが、１人の男がそっと肩を叩いた。
「ファッファッファッ……心配は無用」
「あなたは？」
「紙袋さんだ。そして、ここいるのは……」
　と、桐島はビニール袋をかぶったまま手をサッと出して紙袋さんを制止すると、スッと立ち上がった。
「ビニール袋さんだ」
　ざわめく一同に、全てを察した智瑜。
「先生、いえ、ビニール袋さん！！」
　ビニール袋さんは貫禄十分に生徒たちを見回すと、ビニール袋の中から声をあげた。
「お前らはまだ若いから、大事なことを教えてやろう。……おっぱいマウスパッドをバカにする者、メシを食うべからず！」
　スチャッとおっぱいマウスパッドを出そうとするが、出てこなかった。
「……どこだ？」

このページにイラストを設定する