喫茶Rainyの危機～ナウなヤングにバカ受けデザート編～｜リアクション

喫茶Rainyの危機～ナウなヤングにバカ受けデザート編～

●冷たくて、甘々
　試作デザートを作り始めて、二時間足らず。
　できたばかりのデザートが、テーブルに所狭しと並んだ。
「見本があったとはいえ、初めて作るから形がいびつなのはご愛嬌でね？」
　まだまだ食べる気満々の流は、品定めするように視線を巡らせ、
「うんにゃ、どれも美味そうだぜ」
「流君、まだ食べるの？　お腹を壊しても知らないわよ」
　遠海にたしなめられつつも、デザートスプーンを握り締める。
　まずはどれから食べるか……順番をあみだくじで決めて、まずは修の“ジュエルカップ”から試食。

　パフェグラスの中……レモンスカッシュで満たされたグラスに、粗く砕いた薄青色のゼリーが煌めく。
　その上には、ダイスカットされたマンゴー、黄桃、パイナップルの果肉。
　グラスに浮かぶレモンアイスを、生クリームと、ミントの葉で彩り、
　縁には、輪切りのレモンを添えている。
「すっげえオシャレだな！　撮らせてもらっていい？」
　ラッセルはすかさず一枚パシャリ……窓から差し込む照り返しに、ジュエルカップは輝いてみえた。
　満足そうに画像を保存すると「そういえば」と、ラッセルは修に視線を向け、
「お前って甘いの詳しいな。好きなのか？」
「まあ、嫌いじゃないな……自分でも時々作る、というか」
　聞かれた修は照れくさそうに、視線を泳がせる。

　崩すのがもったいないと、遠海はおそるおそる掬いとり、
「――……、美味しい！　レモンアイスも甘酸っぱくて……この酸っぱさが夏っぽいというか」
　絶妙な甘さと酸っぱさに、驚く遠海の目が丸くなった。
「レモン＝酸っぱいっつー、解りやすさ？　それも選ぶ要素になるな」
「見て解る味、か……それは盲点だな」
　柑橘系なら橙や黄。ベリー系なら赤や紫。
　清涼感なら緑や青……“見た目から得る味わい”もあると、流の感想に修も感心の声をもらす。
「うんうん、美味くできたようだね」
　甘慈も四人の喜ぶ様子に胸をなで下ろす。
　次に当たったのは、遠海の九龍球だ。

　ガラスの小鉢に盛られた九龍球は、ソーダ水の中で静かに漂う。
　透明な球体寒天には、賽の目切りした青いゼリーやキウイ、オレンジ、サクランボ、ブドウがひとつずつ。
　色の濃いブラックベリーも乗せて、見た目はシンプルながら、引き締まった印象だ。
「やっぱ物足りねー量だな」
「デザートは基本、ガッツリ食うモンじゃねぇからさ」
　大食らいの流をなだめつつ、ラッセルが九龍球を一口。
　つるっとした舌触りの後、レモンの風味が、ほんのり鼻腔をくすぐる。
　そのまま噛み砕くと、閉じ込めていた果汁が、口いっぱいに広がっていく。
「うっま！？　さっぱりしてるのに、噛むと甘さが広がって……うわ、うっま！」
「見た目も一番涼しげだし、いくらでも食べられそうだ」
　そのまま飲み干しそうなラッセルに対し、修は丁寧に一粒ずつ口に運ぶ。
　遠海は一口食べてからずっと黙り込み、甘慈は心配そうに遠海の顔を覗きこんだ。
「お口に合わなかったかい？」
「いえ……これがお店の味になるんだ、と思うと、なんだか嬉しくて」
　父と食べた“思い出のスイーツ”を再び食べて……あの日と少し違うけれど、遠海は懐かしさに胸いっぱいだった。
　冷えてきた四人の身体を、甘慈が人肌くらいの昆布茶で温めて……四人は流の意見でアレンジした、三つ目のデザートを試食する。

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