喫茶Rainyの危機～ナウなヤングにバカ受けデザート編～｜リアクション

喫茶Rainyの危機～ナウなヤングにバカ受けデザート編～

●若者ウケ道場
「よし、我ながら上手く描けたかも……マスター、頼子ちゃん！」
　遠海に呼ばれて、キッチンから甘慈達はひょっこり顔を出した。
　ラッセルと修もイラストを完成させて、それぞれイメージイラストを見せあうことに。
　まずは遠海の絵から……描かれていたのは、ビー玉のような、丸いゼリーが盛られた涼しげなイラスト。
　ゼリーと一緒に、数種のベリーとフルーツも入っていて、見た目にも華やかな内容だ。
「遠海ちゃん、これはなんだい？　わらび餅ではなさそうだけど」
　初めて見る甘味に甘慈は首を傾げて、遠海は解説する。
「香港のスイーツで、九龍球（くーろんきゅう）というスイーツです。寒天とフルーツを球体の製氷皿に入れて、サイダーに浮かべるんですよ」
　数種の果物は『遠海のアレンジ』とのこと。

　遠海の提案には、ラッセルと修も「おぉー」と感心した声をもらす。
「楡宮、よく知ってたな？」
　ラッセルの素直な感想に、遠海は気恥ずかしそうに肩を竦める。
「前にお父さんと食べたことがあって……それで、『これは！』って思ったのよね。日本でも手に入りやすい材料だし」
「確かに海外の食材になると、輸送している間に、シーズンが終わる可能性がある」
　作り手のこともよく考えられたアイデアだと、修も頷き返す。
　その傍ら、あんみつを頬ばる流がようやく口を開いた。
「俺は“量が物足りねー”って思うけど、女子は好きそーか」
　甘慈も何度か頷くと、
「これならすぐに作れそうだよ、後で試食もお願いするよ。ラッセル君と修君のほうはどうかな」

「それでは」と、先にイラストを見せたのは修。
　パフェグラスの底には粗めのクラッシュゼリー、その上にベリーやキウイなど果実で層を作ったモノが数種。
　それぞれプリンやアイス、クリームやカスタード、薄切りアーモンドにサクランボなど、別々のデコレーションが施されていた。
「名付けて“ジュエルカップ”だ。フルーツの宝石を詰めたグラスに、ソーダやレモンスカッシュなど、薄い色のジュースを注ぐ。飲み物のような、食べ物のような……不思議食感のデザートをイメージした」
「クリームソーダとか、タピオカミルクティーの進化版って感じか？　かなりボリュームが出るんじゃねーか」
　流は所感をひとつ述べ、残ったクリームソーダを飲み干す。

　さらに修はこんなことを提案してみた。
「俺としてはテイクアウトしたり、好みの組み合わせが選べたらいいと思うんだが……飴村さん、どうだろうか？」
「うーん……僕一人でやってるお店だからねえ。選べると楽しいんだろうけど、お待たせする時間がね」
　マスターの希望は“新しいデザートのアイデア”……経営戦略まで考えるには、少し早かったかもしれない。
「けど、お家に持って帰りたい人もいるだろうし、とてもいいアイデアだ。活かせる機会があったら、お持ち帰り案も使わせてもらうよ」
「タピオカミルクティーが流行ったのも、大学生辺りだったよな？　ニャンスタでのバズりも凄かったぜ……えーと」
　ラッセルが『タピオカ　ニャンスタ』で検索すると、結果上位にはニャンスタグラマーの写真がずらり。
　拡散された数は最大で数万件……広告効果は絶大だった。
「こんなに広まったらマスターは大忙しね。人手が必要になったらお手伝いに来ますから」
　遠海の言葉に甘慈はやんわり頬を緩めた。

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