【海開き】Enjoy Beach Opening！｜リアクション

【海開き】Enjoy Beach Opening！

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　目を覚ますと、アリサはゆっくりと気だるげに身体を起こした。軽く伸びをすると、もやのような眠気が少し晴れて頭がすっきりしてくる。
　日光浴を始めた頃には青々としていた空は、オレンジに染まり始めている。
「ん……今何時？」
　スマホで時刻を確認すると、もう夕方近い時間帯。どうりで空の色もオレンジなわけだ。
　小腹がすいた感覚はあるが、この時間だと海の家もそろそろ閉店になる頃だろうか。
　とりあえず帰り支度をしようとデッキチェアから降り、ワイヤレスイヤホンをしまう。それから身体についた砂を軽く払っていると、声をかけられた。
「お姉さん、一人？」
　振り返り、サングラスを少し下げて見てみる。体つきも顔立ちも、なかなか悪くない感じの男がそこに居た。
（ナンパね）
　すぐにわかった。
「そうだけど」
　サングラスを外し、軽く値踏みするような視線を向けた。男はそれに気圧されることもなく、言葉を続ける。
「俺も一人でさ、見ての通り。海開きにつられて来てはみたんだけど……このまま終わりってのも寂しくってさ。よければこの後、一緒にどう？」
「そうね――」
　アリサは身持ちの固い女である。普段ならここで一蹴して終わるはずのところだが、そうはしなかった。
　ややあって、彼女は言った。
「――いいわよ。後腐れのない一夜の恋も悪くないし」
　そんなものに身を任せる気になったのは、たぶん夏の開放感のせいなのだろう。

◆
　すっかり夕暮れに染まった空の下、マリエッタとナオは来た時と同じように波打ち際を歩いている。
　あんなに賑わっていたのが嘘のように人のいなくなった海岸は、二人しか居ないかと錯覚してしまうほどだ。
「楽しかったね」
「そうだね。来年もまた海開きの頃に来れるといいけど」
　ナオの言葉に、七月がもう下旬であること、もうすぐ終わるということを思い出してしまう。それはつまり、ナオがまもなくボストンへ戻るということだ。
　今こうして一緒の時間を過ごしていても、それが一秒また一秒と過ぎ去っていくことが寂しい。寄せては返す波の音がどこか切なく聞こえるのも、そんな心理のせいなのだろうか。
　ふと立ち止まるマリエッタ。
「どうしたの？」
　一歩先で立ち止まり、ナオが振り返る。
「ナオ」
　もうすぐまた会えなくなる寂しさが、そうさせたのだろうか。マリエッタは、ナオにそっとキスをした。
　ややあってから唇を離し、二人は夕焼けに染まるお互いを見つめ合う。
　今度はどちらからだったろうか。二人は互いの背中に手をまわす。
　波の音に包まれながら、二人はしばらくのあいだ抱きしめあうのだった。

◆
　夕暮れが彩る浜辺を、夏朝と夏夜、そしてハルくんの三人が手をつないで歩いていた。
　つないだ両手をぶんぶんと振り、二人を交互に見上げてハルくんが笑みを浮かべる。
「とっても楽しかったのにゃ！　かーさ、かや、ありがとうなのにゃー！」
「うん……僕も楽しかった。来年も、その先も…毎年、楽しい海開きが開かれると良いね」
　微笑む夏夜に、夏朝は力強くうなずき返す。
「うん……すごく、すごく楽しかった……！」
分離した夏夜、付喪神になれたハルくんと一緒に過ごす楽しい夏――高校３年の夏が、これから始まる。
そして来年もその先も、一緒に過ごす夏はまたやってくるのだ。
その時もまた、素敵な夏と海開きになりますようにと夏朝は思った。

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