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　大型の水鉄砲をしっかりと構え、桜はフロートの陰に身を潜めて敵を狙い撃った。
　大きさと重さに難儀して防戦一方だったのはどこへやら、こちらを狙ってきていた敵をまた一人バッジを真っ白にしてやった。デカくて重いぶん高威力なので、正確に当てることさえできればほぼ一撃である。
「だいぶ慣れてきたわね……！」
　こうなってくると俄然燃えてくるのが、桜という女の子だった。
　友だちはとっくに脱落していて、フォローは見込めない。しかしそんなことお構いなしに、どんどん前のめりになっていく。
　冷静に狙いすました長距離狙撃で、右に居た女性をまず撃破。素早く方向転換し、続けて左の奥に居た男性をスナイプ！　引き金を引く度に相手のサンマさんが真っ白になっていく、それも長距離狙撃を受けて「マジかよ」みたいな顔になるのが面白くてしかたない。
「百発百中ってこのことね！」
　調子に乗ってさらにもう一発、浜辺側の男性を撃つ。しかし楽しさで狙いが不正確になったのか、わずかに右へ逸れてしまった。どこかで誰か「きゅう」と倒れたような気がしたが、脱落済みの友人たちの声援にかき消されて気づけない。
「惜しい！　でもすごいよ桜ー！」
「その調子ー！」
「まだまだこれからよ！」
　夢中になって次の獲物を探す桜を、しかし狙う小さな影があった。
「マンボウくんのかたきだよぉー！」
　瑠樹である。そう、さっきの「きゅう」の正体は、桜の流れ弾にあたったマンボウくんだったのだ！
　バシュンと勢いよく放たれた水は、攻撃に夢中になっていた桜にはよけきれない。
「やばっ！」
　とっさに体を捻ってかわしてみたが、それでも半分くらいは白くなってしまった。
　この状況では冷製な狙い撃ちもできず、とりあえず一発ぶっぱなして後退する。
　桜の反撃には、瑠樹も慌てて避けざるを得なかった。マンボウくんの仇を取りそこねてしまい、このまま桜を追うか束の間迷う。
　それが隙となり、相変わらず撃ちまくっていたまゆらの水鉄砲に被弾してしまう。
「うわわっ、サンマさんが……！」
　まだ真っ白にはなってない。けれどもうあまり余裕はない！
「こうなったら、沢山沢山撃ってサンマさんを守るからなぁー！」
　とにかく水鉄砲を撃ちまくる体勢に入った瑠樹。タンクに残った水を全て打ち尽くす勢いで連射しまくる！
　まゆらは避けようとした拍子に、足を取られてそのまま転んでしまった。バッシャーン！　と大きな水しぶきが上がる。
「わっ、お姉さん大丈夫？」
　あわてて駆け寄った瑠樹に、まゆらは大丈夫だよと笑いかけた。なお、まゆらのサンマさんは大丈夫ではない。
「それより、よそ見してて平気？」
「え？」
　パシャ、と足音がした。
「もらったよ」
　まっしろな髪が横切る。真白が瑠樹の背後から正面へぐるっとまわりこみ、まゆらに意識が向いていた彼のサンマさんを撃ち抜いた。
　だいぶ生き残りが減ってきたことを確認し、そのまま真白は攻勢に転じた。
「さあ、狩りの時間だー」
　大雑把な狙いだけをつけて、じゃこじゃこ水鉄砲を撃ちまくる。
　その戦法は狙いを正確に定めようとするタイプには特に有効で、狙いをつける間を与えることなく仕留めていく。
　まるでガンマンにでもなったような気がして、ちょっと得意になる真白。その勢いのまま、さらなる獲物を求める。
「くっ！」
　真白の次のターゲットになった彰尋は、とっさに上半身を捻った。
　肩や脇腹を盾にしてを防御し、その体勢のまま右へ、と見せかけて左へ踏み込んだ。これもある種の、身体を使った演技である。
　そのフェイントに、どう避けるべきか迷った真白の動きが一瞬鈍る。
　すかさず水鉄砲を撃ち込んだ彰尋だが、真白の身長が低いこともあって当て損ねった。
（近いとかえって狙いにくい……！）
　至近距離まで詰められると、狙うべきサンマさんバッジが視界のかなり下の方に来て狙いにくいのだ。今ので感覚はつかめたけれど。
　すぐさま真白が反撃。
　彰尋は腕を胸の前へと引きつけ、サンマさんをガード。そのまま水鉄砲を適度に連射、さらなる反撃の間を与えずに距離を取った。
　彰尋の連射に、たまらず真白も距離を取る。一度下がりつつ、タンクに水を補給しようとフロートの陰に、
「あ」
　先客が居た。絵梨菜である。
　タンクを外した無防備なその姿に、真白は一切の躊躇なく攻撃！
「きゃんっ♪」
　絵梨菜はとっさに背中で水を受けながら、外していたタンクを装着。振り向きざまにセクシーポーズを交えながら反撃を試みる。同性相手でも目を引くのは、さっき実証済み――って。
　実数値はさておき、背丈のぶんインパクトで言えば絵梨菜以上に豊かなものを真白はお持ちだ。さすがにこれでは胸で目を引くのは無理だろう。
　それなら、と素早くジグザグの歩法を活かした戦法に切り替えた。真白が銃口を向けるのとは反対方向へ踏み込み、多少の飛沫は気にもとめずに距離を詰める。
　すかさず至近距離から顔を撃った。
　反射的に真白のガードが上がり、顕になったサンマさんを狙って反撃。
　絵梨菜の水鉄砲は真白のサンマさんを白く染めるが、しかし真っ白になるには至らない。
　真白が連射、反撃しつつ後ろへ下がる。
　ジグザグ歩法で追いかけ、追撃をしかける絵梨菜。しかし銃口から出る水には勢いがない。
「あれ？」
　水切れである。中断されたリロードは不十分だったのだ。
「残念だったね」
　勝機とばかりに笑みを浮かべて、真白が反撃に移ろうとする。しかしその背後から、先んじて絵梨菜のサンマさんを撃ち抜く水があった。
「あぁん、真っ白になっちゃった☆」
「どこから！？」
　ハッと振り返る真白の視線の先、桜が遠くのフロートの陰から顔を覗かせていた。
　振り向いたのを好機と、桜は真白に狙いを定める。射程距離は桜の水鉄砲のほうが圧倒的に長く、このままでは確実に撃ち負ける。
「もらった――！」
「悪いけど、俺がもらうよ」
　
　桜の死角となっていた右手側から、彰尋が仕掛けた。
　右へ踏み込み、からの左への切り替え。それと同時、斜めに斬りつけるような動きで連射。
　真白に意識を傾けていた桜はとっさに逃げることもできず、水鉄砲を盾にして受ける。
　もらった、と彰尋が瞳を見開いた。
　くん、とウォーターガンの銃口を僅かに上を向ける。狙うは桜の顔面。女子の顔を狙うのはちょっと気が引けるけど、水鉄砲だし許して欲しい。
　そのまま引き金を――。
　右から大外まわりに回り込んだ真白が、彰尋を撃った。
「――なっ」
　回避が遅れた。水をまともにくらった彰尋のサンマさんが、まだらに色落ちする。
　瞬間、桜が笑った。反撃に転じる。
　真白と桜、どちらを防ぐべきか迷う彰尋。放たれた高威力の水をかわそうとし、足を取られて体勢を崩す。すかさず顔を狙ってきた真白の攻撃を受け、それでもなお踏みとどまった。
　彰尋が体勢を立て直す前に、真白はすぐさま狙いを桜に切り替える。彰尋の身体を遮蔽にして牽制射撃、からの突撃。逃げられる前に仕留める！
　それは本来なら、桜にとっては狙ってくれと言っているようなもの。しかし至近距離における真白の低身長は、むしろ狙いを狂わせる。
　距離を取ろうとした瞬間、真白が顔に向けて水を放つ。
「っぷぁ！？」
　面食らった拍子に脚をもつれさせ、桜はそのまま転倒した。
　すかさず真白は反転、彰尋を狙う。
　彰尋もまた体勢を立て直し、右へ踏み込んだ。
　ここまでの癖から、「フェイントが来る」と真白の構えが微かに左にブレる。
　しかし彰尋は、そのまま右から距離を詰めた。右から左へのフェイントを繰り返していたのは、それを癖と思わせるための演技だった。本命のフェイントにつなぐためのフェイントだ。
「抜け目ない人ほど引っかかると思ったんだ……！」
　しまったと瞳を見開く真白に迫る。狙いはもちろんサンマさんだ。
　トリガーを連続して引く音が重なって響き、水が放たれたのはほぼ同時。
　相手のサンマさんを捉えたのは、しかし彰尋の水鉄砲だった。
　真白のサンマさんが色落ちし、それに気付いた彼女ががっくりと膝をつく。
　フィールドに立っているのは、彰尋が最後だった。つまり――。
　ホイッスルが鳴り響き、リッカルド町長の号令がそれに続いた。
「優勝すごいねぇ、おめでとうなぁー！」
「負けたけど楽しかったー！　優勝おめでとうございます！」
「」
　参加者と観戦していた皆の拍手が降り注ぐ中、彰尋には静かにガッツポーズをした。
　それからふと思う。こういう時は、優勝者らしい振る舞いの一つもしたほうが良いのだろうか。
「ありがとう！」
　拍手に負けないようにお腹から声を出し、皆に手を振ってみせるのだった。