反転、膨張。変わって染まって？｜リアクション

反転、膨張。変わって染まって？

　夏朝は、試しに「邪魔しないで」と頼むものの、周りの面々は話を聞かずに口説いてくる。その姿に、周りの面々全スルーしていた夏夜は、表情が無になり始めていた。それと同時に冷静に考察を始める。
（こんな願いだったら、どんな反応をするだろう？）
　試しに近寄ってきた男に二人分の飲み物を頼めば、アイスティーを用意してくれた。そして、試しに買い物へ行って欲しい、と頼むと数名が手を上げて応じてくれた。
（なるほど）
　何か法則があるのかもしれない、と思いながらも、夏夜はクールな微笑みを見せた。
「僕の事が好ましいなら、色々手伝ってもらえると嬉しいな」
「「ハイ、ヨロコンデー！！」」
　夏夜の言葉に、数名の男たちが笑顔で挙手をした。
　が、しかし、その背後では夏朝が「そろそろろっこんで……」とか呟き始めた。もしかしたら誰かを武器にしてぶんまわすかもしれない。だが、その時だった。
「あの、道を開けてもらえますか？」
　と、綾花が口にすると、数名が行く道を開けてくれた。この光景に夏夜は「違いは、なんだろう」と眼鏡を正して呟いた。
　夏夜が観察した所、メロメロになった相手に対して否定的な言葉には応じないものの、その他は応じてくれるようだった。
（なるほど？）
　夏夜は、パチン、と指を鳴らした。

（ここって結婚式会場？　特にここに来る予定なんてないんだけれど）
　一方、三夜深夜子はののこの隣でケーキをもぐもぐ食べながら首を傾げた。しかも自分の服装がふわふわとしたドレスなのも疑問だ。しかしケーキは美味しい。しかもキラッキラなナイスガイがちやほやしてくれる。気分的にはとても良い。
　ケーキが無くなったら誉め言葉や口説き言葉と共にケーキがサーブされるのだから夢のような空間だ。
「ん～っ、美味しいね！　ねぇ、おねーさん！」
「？！　そ、そうね」
　と、ののこと頷きあう間にも何人もの異性（時々同性）が入れ替わり立ち代わり甘い言葉と共にケーキをサーブしていく。
（それにしても、何で普段こんなにモテないのかしら……）
　ケーキを食べながら、ふとそんなことを考えてしまう深夜子。なんか考えてみても理由がうまく出てこない。やっとでてきたのは『出会いがない』という事。圧倒的に『出会いがない事』である。
（なんだろ、なんか涙が出てきちゃった……）
　しゅんとした深夜子に、同年代ぐらいの若者がハンカチを差し出す。それを受け取り、ぎゅっ、と目元を押さえつけて涙を拭った彼女は群がる人々に言った。
「もっとケーキとかお菓子を持ってきて！　こうならやけ食いするわよっ！！」
　傍らで、ののこが「がんばれー！」と応援していた。だが、やけ食いであって大食いではない。すべてが終わった後胃もたれと戦う事になろうとはまだ深夜子は知らない。

「あら、可愛いわね♪　ここでケーキを食べたらどうかしら？　いっぱいあるわよ」
「はいっ！　ありがとうございます！」
　美和の元に運よく行けた千恵は、ちょこん、と美和の隣に座りケーキを食べていた。美和はひっきりなしに色んな男性に言い寄られながらテレテレしている。モテモテ状態がとても嬉しい反面、照れてしまっているらしい。
　だが、優しさと気品を前面に出したメイクをしている美和は、普段よりずっと大人の女性の顔をしているように見えた。
（だからかな、近くなのにちょっと遠く感じる……）
　なんとなくそう思いながら、千恵はそっと問いかける。
「ねえ、美和お姉ちゃん変じゃない？この状況……」
「あら？　そうかしら？　べつにおかしい所はないかな？　ちょっとケーキに恵まれすぎている気はするけれど……。お祝いだからいいのよ」
「そうかなぁ」
　美和はうふふ♪　と優しく笑い、なんとなくそれに絆された千恵は分けてもらったケーキをもぐもぐ。とても美味しいケーキに表情が緩むが、なんかやっぱり違和感を覚える。
　美和はというと、色んな人に言い寄られて照れている。一言一言にてれてれ、てれてれ。（目移り、してる？）
　ふと、その事に気付いた千恵は何気なく問いかける。
「美和ちゃん先生は、どんな人がタイプなの？」
「え？　そうねぇ……、優しくて、頼りがいがあって……。うふふ、なんだか長くなりそうだし、千恵ちゃんの好きなタイプを先に聞きたいかしら？」
　まさかの美和の返しに、千恵は面食らう。だが、ほんのりと頬を赤くして
「わ、私は……背が高くて穏やかで運動神経がよくて、じゃなくて……（あれ？　ついお兄ちゃんを思い出しちゃった）」
　脳裏に過った兄に、顔がさらに赤くなる千恵。

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