魔王ルーク（及びその他多くの魔王）降臨……？　増えすぎで星魔王塔は大騒ぎ！

　――星幽塔……改め星魔王塔・第一階層：Barアストラル改めBar魔王ストラル

　傍迷惑なことに、こんな所にまで吸魂ミルちゃんは影響を及ぼしていた。そいつの所為でなのかは不明だが、ルーク・ポーラスターの頭に角が生えている。その上吸魂ミルちゃんがそこにいるから厄介だ。
「魔王ルーク様が来たぞー！！」
　玉座にいてもつまらないので、あちこち回る事にしたルークが最初に訪れたのは、突如現れた謎の洞穴っぽい物。「なんだこりゃ」と覗きこもうとしたその時、声をかける者がいた。
「ここは鉱山よ。今から中に行くの」
「誰だ！」
　ルークが振り返ると、さらさらとした灰色の髪をお団子にした少女がちょっと偉そうな表情で立っていた。周りにはモグラっぽい獣人など配下らしき者たちが。
「私は、『石の魔王』（嘉渡洲 稀跡）よ！　さぁ、配下達！　私と一緒に宝石や鉱石を発掘するわよ！　掘って掘って加工するわよ！」
　彼女の名乗りに合わせ、配下たちがノリノリで返事を返す。妙にアットホームでお姫様と小人が暮らすアニメ映画に出てくる音楽が聞こえてきそうだ。
　そこで一人のモグラ獣人がルークへピッケルを渡す。「え？　おい俺様は……」と断ろうとしたルークだったが
「皆、ピッケルは行き渡ったかしら？　さぁ、行くわよ！！」
「おーっ！」
　と、稀跡の掛け声と配下達の掛け声に釣られて、「おーっ」とこぶしを天に突きあげてしまった。


　――その頃の『Bar魔王ストラル』

　魔王と化したサキリ・デイジーカッターは、ルークを探し魔王ストラルへと足を運んでいた。だが、そこに彼はいない。
（魔王化したルークはここに居ると思ったが……）
　『刃の魔王』と名乗り、『世界中の刃物を我が物にしたい！』という気持ちをどうにかこうにか押さえつけながら辺りを見渡すサキリ。彼はなんとなく「こういうの中二病って言う奴かな？」なんて考えてしまう。
　Barの中はカオスに満ちていた。ちょっと弱めな魔王がそれぞれ好き勝手しているからだ。
（それにしても……魔王多くないか？）
　サキリは思わず眉を顰める。だが無駄な戦闘は避けた方がいいような気がした彼は協力者を求めようと考えた。が！
「ふははは、ですなの！　あかりは『光の魔王』ですなのよ！」
　と、店の真ん中で白い羽根を生やした配下と笑う『光の魔王』こと橘 明里。彼女はサキリを見つけると楽し気に駆け寄ってきた。
「そこの者！　よい波動を感じる……っ！」
「え？」
　明里に突如そんなことを言われ面食らうサキリ。彼が「俺か？」と自分を指さし明里に問うと、明里は頷いて手を差し伸べ
「あかりと一緒に光あふれる世界にするのだ、ですなの！　世界の半分をサキリ君にあげよう、ですなの！！」
　ザ・魔王的勧誘！！　周りの配下たちも目をキラキラさせてサキリを見つめてくる！　だがサキリはというと……？
「……すまない、俺にはやるべき事がある」
　とクールに明里の勧誘を断る。「なんでなの～？！」と愕然とした明里の叫びを残しBerの奥へと進むサキリだが、次はふわっ、とした少女が現れる。彼女は音もなく魔王っぽい（どこか艶っぽかったり角があったり王冠を被ったり）姿へと変化した！
「はっはっはっ！　我は『魔王見た目すぐ変わる』である！　我は声によって姿を変化させようぞ！！」
『魔王見た目直ぐ変わる』（普段はおっとりとした女性である雪寄 愛唯）が勇ましく言った。因みに彼女のろっこん『ボイスミラージュ』は声の演技を聞かせる事によって聴いた者に、『声色に合う姿をみた気にさせる』のだ！　但し姿は触れず、物体操作することもできない（ここ重要）。最初少し身構えたサキリだったが、とりあえず「他を当たろう」と奥へ進む。背後の方で明里が「すっごいですの！　仲間になるのですの！」と勧誘しているのを聞きながら
（この状況打破のために、誰に協力を仰ごうか……）
　と真面目に辺りを見渡す。すると、一人の男性がサキリを手招いている。不思議に思っていると、彼はハルキ・イエハナと名乗った。
（どうやら、彼も被害を押さえたい側みたいだな……）
　吸魂ミルちゃんがルークの角にある事を知っていたハルキも、状況を打破したいと考えていたのだ。
　因みに、ハルキ自身も魔王化しており「作物の害虫とかぷちっとしちゃう系魔王」なのだそうな。サキリは思わず「はぁ……」と少し気の抜けた相槌を打ってしまった。
　だが、皆が好き勝手魔王として楽しんでいるのを考えると協力的な仲間が出来る事は心強い。サキリとハルキはがしっ、と握手を交わした。

（あら、色んな魔王がいますねぇ）
　サキリとハルキの様子を見ていたのは、カウンターの椅子に腰かけ微笑みを浮かべていた巫部 紫苑。彼女はセクシーな雰囲気のドレスを纏い、癒しの光が宿った日傘を持っていた。まぁ、現在室内な為畳んでいるが……。そんな彼女は美味しいご馳走を食べながら魔王たちを眺めていた。
（なんだかよくわからないですけど、私は魔王だぁ～って言いたくなる気分ですねぇ。楽しいからそのままにしましょう♪）
　こんなにたくさん魔王がいるならひと悶着ぐらいありそうだ、とも考えながらも目の前に出された料理は幸せそうに食べてしまう。その魅力的ボディのどこに入るのだろうか……？
「やれやれ……。戦う以外の方法で穏便に解決したいところだな」
　紫苑が食事する姿を見ながらそう呟くのは旅鴉 月詠。彼女はバーカウンターの内側で皿を拭いていた。彼女は「酒場が居城なら、魔王とは客ではなく店主では？」と口遊みつつ居城たる喫茶『魔王良い猫』から酒場へ出張してきたのである。因みに魔王としての名前は『魔料理王タビガラス』。
「はーい、クエスト（＝料理）を出すよ～！　状況がわからん人はまあ……、とりあえず飯食ったり話をしてくれるといいよ」
　こういうのは楽しんだ者勝ちなのだ、と声を上げどんどん料理を出していく。
「あ、ナポリタンのお代わりくださ～い」
　おっとここで紫苑のお代わりコール発動だ！　月詠は配下と共に手早く調理に入る。
　その食欲をそそる香りに空腹を覚えたサキリは、腹ごしらえしながら考えようと席に着く……と、目の前で２人の女性が楽し気に話していた。
「へぇ、『罠の魔王』……。随分楽しそうじゃないか」
「まぁね。ちょっと居城（ダンジョン）をこさえたので試してみないか？　宝自慢の『盗賊の魔王』さんなら軽いかもしれないが」
　そんな話をするのは、『盗賊の魔王』ことしっぽが今日も美しいフォルカ・ヴィクスンと『罠の魔王』こと凛々しいお姉さまティオレ・ユリウェイス。
（思わず『盗賊の魔王』と言おうとしたが……。しかし、向こうはお宝自慢だろうけど、こちらはお宝を売ってしまうし……）
　ティオレはそれ故に『罠の魔王』と名乗った。そして罠を一杯用意したダンジョンを制作し……挑戦者を待っていた。このBarを訪れたのもその一環である。
　しかも、ティオレのダンジョンには魔王級に強い魔物が存在している。決して侮れない。
　フォルカはふふっ、と首から下げた金のネックレスを揺らしながら笑った。
「面白いわね。『盗賊の魔王』フォルカ様がさくっと攻略してあげる！」
（ちょっと待て！）
　どうにか協力を仰げないかと様子を見ていたサキリだったが、周りの魔王たちもまた力試しだのなんだの言い始めティオレが作ったダンジョンへ向かおうとか言い始めた。
「あのルークのことだ。そっちに流れるか？」
「ならば、 私達も向かうとしよう」
　話を聞いた二人もまた、ついていく事に。その後ろからわーきゃーと明里と愛唯が楽しそうに話し、紫苑も「あらあら、楽しそうですねぇ～」とふわふわとした笑みで付いて行く。
（……大丈夫、か？）
　ハルキはちょっとだけ不安になった。

　そして、魔王がぐっ、と減った『Bar魔王ストラル』では
「やれやれ。向こうで屋台を出すのも、一興かな」
　とおっとり刀で準備に入る月詠の姿があったとか……。