特撮ヒーローがやってきた！｜リアクション

特撮ヒーローがやってきた！

●昼休み
撮影も一段落して昼休み。
待ちに待ったロケ弁の登場にウゾーの一人が歓声を上げる。
「おおっ！やった！寝子島映画村特製幕の内弁当！」
ウゾーのスーツ姿のまま着脱容易なマスクだけをぽんっと外すと中身は体育科の梅影裕樹。
午前の撮影はさほどハードではなかったが、只でさえ育ち盛り。
それなりにボリュームのあったロケ弁をあっという間に平らげる。
独り暮らしであり、普段から食費を節約している裕樹にとっては非常に有り難い一食となった。

その頃、風雲児轟は憧れのスーツアクター達に話を聞くべく休憩中の彼らの元へと足を運んでいた。
轟は演技やアクションについて熱く語り合う事が出来て満足そうだったのだが、彼が戻った頃にはロケ弁は残っていなかった。
もちろん人数分きちんと用意されていたわけだが、何かの手違いか、余った物と思った誰かが持って行ったものか。
呆然と佇む轟の腹が鳴る。
そこに背後から声がかけられる。
「あの……風雲児君」
そこへ現われたのは長身にロングヘアーの少女。美少女という形容は彼女のためにあるに違いない。
轟が振り向くとそこにいたのは彩華紫乃愛。時々一緒に下校したり話したりする相手だった。
「お弁当、作って来たの。食べてもらえる？」
「え、まじで？　俺に？　サンキュー！　頂きます！」
ぱっと顔を輝かせた紫乃愛が弁当を開ける。
そこにはハンバーグ、ポテトサラダ、出汁巻き玉子に黒豆の甘露煮、炊き込み五目海鮮ご飯と唐揚げ、春巻き。
ボリュームも栄養も満点だ。イラストレーターとしても活躍しているだけあり、彩りや配置も工夫されており非常に美味しそうだ。
轟の落胆は一気に吹っ飛んだ。
「いただきまーす！」
ハンバーグを一口頬張った轟の幸せそうな顔を見届けると紫乃愛は一般見学者の中へと戻っていった。
その紫乃愛の表情もまた、幸せそうだった。

●続・不穏な噂
出番が終わりバイト料を受け取ったふわりが見つけたのは不審な人物。
黒いシャツに黒いGパン。そしてサングラス。
「ねぇ、お兄さん、お兄さん。そんな格好でコソコソしてるとー、不審者に間違われちゃいますよ？」
黒い男はびくっと体を震わせるとふわりの方に向き直る。
「そ、そうかな？」
柱の影に半身を隠し防御態勢を取るのはどうやら若い男のようだ。
「ああ、そこから先は言わなくていいですよー。人生色々ですからねー」
ふわりのペースに巻き込まれた黒い男はそのまま一緒に歩き出す。
「私ぃ、この前喫茶店でバイトをクビにされたですよー。ただちょっと転けた拍子に店長の頭を偶然叩いちゃったらカツラがニョーンって飛んじゃてー」
「私ってば思わず店長の頭を見て『喫茶「六本木」がぁー、喫茶「一本毛」になっちゃいました？』」
「それで開始三十分でバイト終了。世の中厳しいのですよーぅ。お兄さんも何やら大変そうですねぇ～？」
ふわりの話に思わず吹き出す黒い男。
「ああ、それがね、俺、福井陽菜の同級生。寝子島で撮影があるっていうから、会いに行きたいなって発言したらいつの間にかストーカーにされてて。それに彼女はアイドルになっちゃったし俺は普通の大学生だって思ったら会いづらくなっちゃって」
「遠慮せずに会いに行けばいいと思いますよー」
そんな話をしながら歩いていると、いつの間にか楽屋の側に来ていたらしい。
ドアが開いて出てきたのは福井陽菜。
あまりの偶然に黒い男は少し照れながらも陽菜に声をかけ、陽菜もそれに笑顔で応えていた。
「世の中こんな偶然もあるのですねー」
そんな偶然を運んだ当人はといえば、既にその場を立ち去りながらバイト料の入った封筒を覗き込んでいた。

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