レディ・ロゼッタの運命考察｜リアクション

レディ・ロゼッタの運命考察

「そうさ。――久しぶり、円ちゃん」
　がらりと変わる声音、表情。桜庭円はあえて問う。
「七男……なの？」
「おやおや、忘れてしまったのかい？」
からかうように七男は言った。
「で、君もまさか、おかしな占い師のところに出頭してくれ、とか今までの罪をみんなの前で懺悔してくれ、なんて言ったりはしないよね？」
「言わない。今日はキミと話したかっただけだから」
「ふうん？」
「七男。最初に出会ったとき、友達になれるかってボクに尋ねたよね。そして律儀に次の予告までしていって。……ひとりでいるのが、辛いんじゃない？」
「まさか」
言葉を遮り、円は言う。
「救いがほしいんじゃないの？　悲しい思いをするだけの人生なんて、ボクも悲しいよ」
『セブン』の目が、一瞬殺意に燃えたように見えた。
「七男、これ」
白い手に円が押しつけたのは、不恰好な黒猫のぬいぐるみ。半透明のラッピング袋に入れられ、色とりどりの細いリボンで口元を結んである。
「ボクが作ったんだ。受け取ってよ。キミがいつ生まれたなんてわからない。でも、キミの誕生日を祝う人がいてもいいと思う」
七男は信じられないように、手の中にある袋を見た。次に不可解だという顔をして円を睨み付ける。円は目をそらさなかった。真っ向から七男の瞳を見返す。
「『預かる』よ。ぼくに誕生日なんて存在しない。でも、ほかならぬ円ちゃんからのプレゼントだ。捨てるわけにはいかない」
目の前の『少年』は円に背を向けた。その背は小刻みに震えている。笑っているのか、怒りをこらえているのか、円にはわからなかった。
「ぼくは断罪者で、殺人鬼で……君たちに嫉妬し続ける敵対者だ。殺意を抱き続けて進む者だ。この袋を開けるわけにはいかない。だからこれはずっと、このままだ。開けられないプレゼントはぼくの覚悟、君たちをかならず滅ぼすという、殺意の表れなんだ」

「帰ってくれないか。ぼくの気が変わる前に、あの子を連れて」

　小山内海はアトリエで、ついにその絵と対面した。静かな中に鬼気迫るものを感じる。描き手のあふれんばかりの念に、圧倒されそうになる。
（だめ。しっかりこの絵を見なきゃ）
海は自分を奮い立たせて、モノクロの水彩画、幼い菜々緒の映る絵を見つめた。
（これ……自画像なのかな？　先輩と同じ顔、でも先輩じゃない）
どこか別人のような違和感。その違和感の元を探ろうと海が思ったそのとき、足音がした。
「海ちゃん。そろそろ帰ろ？　暗くなるし」
「せかすようでごめんなさいね。またいらっしゃいな」
どのぐらいの時間アトリエにいたのだろう。海は時間の感覚を失いかけていた。差し込む夕日で、時を知る。帰ろうと海に言う円も、菜々緒も、なんだかひどく疲れてしまっているように見えた。並んで帰る道すがら、円の言葉は少ない。海はその理由を聞くことができなかった。海自身ももまた、あの絵のことで頭がいっぱいであったから。
（先輩のことが知りたくて、勝手に心の中を推測しちゃっているけど、これって失礼なことなのかな？　勝手に先輩の心にずかずか踏み込もうとしているのかな……）
二人の沈んだ心と同じ色をした、どんよりとした夕日が沈んでいった。