ミネラルショーがやってきた！｜リアクション

ミネラルショーがやってきた！

『かぎしっぽミネラルズ』で稀跡と別れた後、気ままに店を巡り、気に入った石を購入したりしていた葉月だったが。
『ペリドット専門卸・加工も賜ります』と謳う店に足を踏み入れる。
　他は色とりどり、様々な宝石・鉱物を並べているが、この店の商品は全て緑である。
　ある物は、初夏の日差しに透ける若葉のようで。
　その隣には、茹でたほうれん草のような物。
　孔雀の羽根、菜花のつぼみ、南国の海、冬の雪かぶる松葉――あるいは点滅する信号のような、種種雑多な緑。
　葉月が目を留めたのは、自身の瞳にも似た色合いのペリドットだ。
よく磨き上げられており、照明を反射して輝いている。
　見つめる葉月の目に、淡くて深い色合いと煌めきを投げかける石だ。
「あの、これ下さい。あと……お守りにしたいのでブローチに加工して貰えますか？」
「かしこまりました。少々お時間を頂戴いたします」
　ペンダント作り講座に参加することを伝え、出来上がったら連絡してくれるよう頼んで、葉月は講座の会場へ向かった。

（……彼女は森の妖精みたいだな）
　隣の『FOSSIL COLLECTER』に居た想花は、葉月が品定めから出て行くまでを横目で見ながら、そんなことを考えた。
　腰までのウェーブがかった黒髪と、翡翠を思わせる瞳。どこか作り物めいた可憐さも手伝って、想花の空想をかき立てるのだ。
「うーん、この大きなアンモライトは……」
　想花は目の前にある、赤みの強いアンモライトと合わせて考えた。

　――このアンモライトは災厄として天から墜ちてきて、神木を破壊。その際に神木の精霊と魂が繋がってしまった。永い時を経て、アンモライトは世界崩壊を企んだ暗黒魔道士を封印する要石となったが、それは精霊の生命力で封印を維持することに他ならず、神木に連なる精霊達は猛反発。彼らの加護を失った世界は、急速に衰退しつつあった――

「むむ、魔道士を封印したと思ったらまた一難……封印の副作用で神木の精霊は記憶を失い、意識だけが抜け出して、故郷の森を思わせる宝石を探し求めるのであった……」
　複数のアンモライトを手に取り、空想にふける想花を同じ店にいた桜がちらちらと横目で見ていた。
　想花は小声で呟いていたが、近くにいた桜には聞こえていたのだ。

（あの設定……もしかして、アクセサリー作家の『マンクス』さんじゃない？）
　マンクスとは、桜がよく見に行くＳＮＳの人気作家だ。天然石をふんだんに使った、マジックアイテム風の
デザインもさることながら、作品に付加された、緻密で幻想的な世界設定も大好評を博している。
　桜はＳＮＳの写真や、掌編小説を読むのを楽しみにしているのだ。
（アイコンは猫の写真だから顔は分からなかったけど、私と同じ高校生……だよね？）
　桜はチラ見を気づかれてないかとドキドキしてしまう。
（次は黄鉄鉱のアンモナイトを見てる……新作はスチームパンク風なのかな……それも素敵かも）
　これ以上（推定）マンクスと一緒の店にいる緊張に耐えられなくなった桜は、アンモライトの欠片を購入し、足早に店を離れた。

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