ミネラルショーがやってきた！｜リアクション

ミネラルショーがやってきた！

「砂漠のバラに電気石、ざくろ石各種取り揃えております、かぁ。みんな結構いいお値段だなぁ」
　ある店で立ち止まった水上桜は、白、黄色に赤に緑と、ずらりと並ぶざくろ石に目を見張った。
　アクセ作りを趣味にしている桜としては、水晶やら宝石やらは気になる存在なのだが。
「はー、女子高生のお小遣いじゃなかなかねぇ」
　お値段はゼロ３つの商品が多く、決して安くはない。
　せめて写真でもと思い、店主に許可を得て撮影していると、背後の『かぎしっぽミネラルズ』を訪れた女性達の話が聞こえてくる。
「まーちゃん、『看板猫、かぎしっぽのナナちゃんは産休中です』だって」
「写真かわいい！　人気の看板猫なのね」
　桜には２人の年齢は分からなかったが、値段にゼロ４つの商品でさえ手に取っているのだから、社会人であろう。
「私ね、学生時代水晶を集めるのに凝ってた時期があったの。シトリンやアメジスト、ローズクォーツとか」
「ふぅん。じゃああの、内側に紫びっしりの岩とかも？」
「ふふっ、さすがにそんな大物は買えなかったよー。専門課程に進んでからは忙しくて、縁がなくなっちゃったけど」
「じゃあ、りさちんにとっては懐かしい石というわけね」
　りさちんと呼ばれた女性は頷き、連れのまーちゃんと共に『たまにはアクセサリーを買っても良いよね』と笑いながら、品定めを始めた。
　服と合わせたり、店員の差し出す鏡を見たり。２人で「とても似合ってるね」と楽しそうだ。
「いいなぁ、大人はガンガン買えて」
　ぽつりとこぼす桜に、女性の店主が笑って慰めてくれた。
「まぁまぁ、そう言いなさんな。お嬢さんも大人になって働けば、好きな物買えるようになるわよ」
「そうかなぁ」
「そうそう。入場券見せてくれたら、学生料金にしてあげるから。秘密だよぉ」
「えぇっ！　本当ですか！」
　思わず声を上げてしまった桜に、店主は「秘密だってば」と声を潜め、小さな籠を出してくれた。
「ざくろ石の原石だよ。加工前の小粒だけど、700円くらいはするんだ。でも、４個選んでぴったり2,000円にしちゃうよぉ。その代わり、大人になったらまた来てねぇ」
「来ます来ます」
　一も二も無く頷いた桜は、４つを真剣に吟味する。
「ざくろ石と言ったらやっぱり赤……でも、橙色もいいし、緑も……うーん」
　迷いに迷ったあげく、暗い赤、橙、薄緑、黒の４種を選んでお金を払う。最後にカタログも貰った桜は、店主に頭を下げて、足取りも軽く店を後にした。

　それを見ていたりさちん――深倉理紗子が呟く。
「懐かしいなぁ。私も昔、あんなおばさんがいる店に通ってた」
「なるほど。じゃあ『理紗子ちゃんの好きなアメジスト入ったよ』とか『このシトリン取っておいたよ』とか言われてたわけね、りさちんは」
「そうそう、そんな感じ」
　まーちゃん――深林真瞭が真似すると、理紗子はぷっと吹き出した。
　買い物を終えた２人は、戦利品であるピアスやブローチを見つめて、微笑みあう。そして、また別の店へ歩き出した。

このページにイラストを設定する