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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
付喪神夜行絵巻
椿丸との剣戟
◆時治郎
じっとりとした夜気が絡みつく、丑三つ時の桜台墓地。野暮ったい雲に見下される梓 時治郎が対峙するのは、艶然と佇む一人の女だった。
黒地に赤い椿の華を散らした和服を纏う女の手には、抜身の刀が握られていた。時治郎の愛刀、椿丸である。
「まさかてめぇと戦う日が来るとはな」
そのものと戦う以上、椿丸は使えない。すると小太刀で戦うことになるが、時治郎とて飾りで大小を佩いているわけではなかった。
小太刀を構えると、対する椿丸が自らを構える。
そよいでいた夜風が勢いを増し、雲が流れ始める。やがて途切れた雲の向こうから月が覗き、対峙する二人を照らした。
「ぬしさまの御首、もらいうけまする」
「やってみな」
「――では」
椿丸が冴え冴えと夜に閃いた。美しい軌跡を描く払いが胴を狙い、時治郎は僅かに引いて切っ先をかわす。返す刀で椿丸は片手だけに持ち替え斬り上げた。飛びかかる蛇のように伸びる一閃を小太刀で受け流し、彼女の刃圏ぎりぎりへと身を退いた。
「届きませぬか」
女の艷やかな唇が、熱く隠しきれない昂りに震えた吐息を放つ。そうでなくては、と視線が語っていた。
「ったりめぇだ、どれだけ使い慣れてると思ってやがる。二尺六寸きっかり、振るヤツが変わろうが間合いを間違える心配はねえよ」
「わたくしのことをそこまで覚えておいでとは。胸が熱うなりまする」
椿丸の姿が視界から消える。袖が舞うのを微かに捉え、時治郎は反射的に身を翻す。椿丸は右へ回っていた。剣筋を読ませないためか、椿丸は刀身を袖に潜らせるような構えから斬り上げを放つ。
狙いは小太刀を握る右腕だった。半身を引いてかわせば、今度は剣閃が滝のぼりのように跳ねた。
左へ傾けた頭を切っ先が掠め、ざんばらの横髪が断ち切られて宙を舞う。月を照り返す刀身の輝きの向こうに、椿丸が微笑むのが見えた。
袖を翻し、舞うように椿丸が剣を振るう。つぼみからやがて花開くように激しさを増していく剣舞を、時治郎は受け流しと体捌きでもって避け続けた。
しかし椿丸の剣捌きもまた流石だ。正しく手足のように振るわれる剣は、時治郎に既にいくつもの手傷を追わせている。
今しも首筋を氷で撫でられたような冷たさが走り、一拍遅れて同じ場所が熱を持ったところだ。椿丸の狙いのクセに気付いていなかったなら、首がおさらばしていたところだ。
――やっぱこいつ、明らかに俺の首を狙ってきていやがる。
『怨敵の首を刎ね飛ばす事、さながら椿の花の落つるが如し』などと謳われた銘刀であればこそ、それに縛られているのだろうか。椿丸の剣はすべてが首を落とすことに繋がっている。おかげである程度動きは読めるわけだが、それで今この状況だ。余裕などあったものではない。
椿丸が袈裟掛けに閃き、時治郎は斜めに掠めるように踏み込んだ。切っ先が肩を捉え、紅い雫が砂利に滴る。
返す刀は小太刀で受け流し、
刃と刃が触れ合った刹那、椿丸が腕を体に巻きつけるように刀を引いた。澄んだ金音はひっかくような金属音へと化け、火花が血しぶきのように飛び散った。
「ちぃ……っ！」
その勢いに小太刀ごと腕を取られ、時治郎の体軸がぶれた。
砂利が弾け飛ぶ激しさで踏み込んだ椿丸が突きを放ち、時治郎の首筋から血がほとばしる。しかし斬ったのは薄皮一枚。命には届かなかったその一撃に、時治郎は歯を剥いて笑った。
胴を突けば決まり手のこの状況でも、椿丸は首を狙うと確信していた。信じていたと言ってもいい。
時治郎の足が砂利を踏みしめる。
「終いにございまする」
蝶が飛ぶように翻った刃が時治郎の首を狙い、
「ああ。確かに終いだ」
しかし彼はその刃圏の外に居た。
踏み込むと見せかけて滑るように引いていた目の前を、椿丸が紫電となって過ぎていく。
その軌跡を追って踏み込んだ。時治郎の首筋を伝っていた紅い雫が取り残され、誰も居なくなった砂利の上に零れ落ちる。
「さあ、俺の手元に戻って来な」
小太刀を女の心臓へ突き立てる時治郎の声は、表情に比して意外なほど穏やかだった。
「がっ……！」
椿丸が鮮血を吐き、その飛沫が時治郎の頬を濡らした。女の生白い手がそこに触れ、朱引のような跡を残していく。
「おお……それでこそ、ぬしさま」
崩折れる付喪神は、血に塗れながらも満足そうに笑っていた。
月を再び雲が覆って訪れた闇の中、椿丸が倒れた場所には彼女の姿は既になかった。代わりに刀の椿丸が地面に突き立ち、鞘が地面に転がっている。
「よっと」
引き抜いて血払いし、鞘に戻すと鍔のあたりを撫ぜた。この椿丸、生きていた頃から数えればもうざっと百六十年以上。女房よりも古くて長い付き合いの愛刀だ。
「てめえがなくっちゃあ、俺も具合が悪いや」
ニィッと歪んだ笑みが、三日月のように夜に浮かんだ。
じっとりとした夜気が絡みつく、丑三つ時の桜台墓地。野暮ったい雲に見下される梓 時治郎が対峙するのは、艶然と佇む一人の女だった。
黒地に赤い椿の華を散らした和服を纏う女の手には、抜身の刀が握られていた。時治郎の愛刀、椿丸である。
「まさかてめぇと戦う日が来るとはな」
そのものと戦う以上、椿丸は使えない。すると小太刀で戦うことになるが、時治郎とて飾りで大小を佩いているわけではなかった。
小太刀を構えると、対する椿丸が自らを構える。
そよいでいた夜風が勢いを増し、雲が流れ始める。やがて途切れた雲の向こうから月が覗き、対峙する二人を照らした。
「ぬしさまの御首、もらいうけまする」
「やってみな」
「――では」
椿丸が冴え冴えと夜に閃いた。美しい軌跡を描く払いが胴を狙い、時治郎は僅かに引いて切っ先をかわす。返す刀で椿丸は片手だけに持ち替え斬り上げた。飛びかかる蛇のように伸びる一閃を小太刀で受け流し、彼女の刃圏ぎりぎりへと身を退いた。
「届きませぬか」
女の艷やかな唇が、熱く隠しきれない昂りに震えた吐息を放つ。そうでなくては、と視線が語っていた。
「ったりめぇだ、どれだけ使い慣れてると思ってやがる。二尺六寸きっかり、振るヤツが変わろうが間合いを間違える心配はねえよ」
「わたくしのことをそこまで覚えておいでとは。胸が熱うなりまする」
椿丸の姿が視界から消える。袖が舞うのを微かに捉え、時治郎は反射的に身を翻す。椿丸は右へ回っていた。剣筋を読ませないためか、椿丸は刀身を袖に潜らせるような構えから斬り上げを放つ。
狙いは小太刀を握る右腕だった。半身を引いてかわせば、今度は剣閃が滝のぼりのように跳ねた。
左へ傾けた頭を切っ先が掠め、ざんばらの横髪が断ち切られて宙を舞う。月を照り返す刀身の輝きの向こうに、椿丸が微笑むのが見えた。
袖を翻し、舞うように椿丸が剣を振るう。つぼみからやがて花開くように激しさを増していく剣舞を、時治郎は受け流しと体捌きでもって避け続けた。
しかし椿丸の剣捌きもまた流石だ。正しく手足のように振るわれる剣は、時治郎に既にいくつもの手傷を追わせている。
今しも首筋を氷で撫でられたような冷たさが走り、一拍遅れて同じ場所が熱を持ったところだ。椿丸の狙いのクセに気付いていなかったなら、首がおさらばしていたところだ。
――やっぱこいつ、明らかに俺の首を狙ってきていやがる。
『怨敵の首を刎ね飛ばす事、さながら椿の花の落つるが如し』などと謳われた銘刀であればこそ、それに縛られているのだろうか。椿丸の剣はすべてが首を落とすことに繋がっている。おかげである程度動きは読めるわけだが、それで今この状況だ。余裕などあったものではない。
椿丸が袈裟掛けに閃き、時治郎は斜めに掠めるように踏み込んだ。切っ先が肩を捉え、紅い雫が砂利に滴る。
返す刀は小太刀で受け流し、
刃と刃が触れ合った刹那、椿丸が腕を体に巻きつけるように刀を引いた。澄んだ金音はひっかくような金属音へと化け、火花が血しぶきのように飛び散った。
「ちぃ……っ！」
その勢いに小太刀ごと腕を取られ、時治郎の体軸がぶれた。
砂利が弾け飛ぶ激しさで踏み込んだ椿丸が突きを放ち、時治郎の首筋から血がほとばしる。しかし斬ったのは薄皮一枚。命には届かなかったその一撃に、時治郎は歯を剥いて笑った。
胴を突けば決まり手のこの状況でも、椿丸は首を狙うと確信していた。信じていたと言ってもいい。
時治郎の足が砂利を踏みしめる。
「終いにございまする」
蝶が飛ぶように翻った刃が時治郎の首を狙い、
「ああ。確かに終いだ」
しかし彼はその刃圏の外に居た。
踏み込むと見せかけて滑るように引いていた目の前を、椿丸が紫電となって過ぎていく。
その軌跡を追って踏み込んだ。時治郎の首筋を伝っていた紅い雫が取り残され、誰も居なくなった砂利の上に零れ落ちる。
「さあ、俺の手元に戻って来な」
小太刀を女の心臓へ突き立てる時治郎の声は、表情に比して意外なほど穏やかだった。
「がっ……！」
椿丸が鮮血を吐き、その飛沫が時治郎の頬を濡らした。女の生白い手がそこに触れ、朱引のような跡を残していく。
「おお……それでこそ、ぬしさま」
崩折れる付喪神は、血に塗れながらも満足そうに笑っていた。
月を再び雲が覆って訪れた闇の中、椿丸が倒れた場所には彼女の姿は既になかった。代わりに刀の椿丸が地面に突き立ち、鞘が地面に転がっている。
「よっと」
引き抜いて血払いし、鞘に戻すと鍔のあたりを撫ぜた。この椿丸、生きていた頃から数えればもうざっと百六十年以上。女房よりも古くて長い付き合いの愛刀だ。
「てめえがなくっちゃあ、俺も具合が悪いや」
ニィッと歪んだ笑みが、三日月のように夜に浮かんだ。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2022年01月30日
- 参加申し込みの期限
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- 2022年02月06日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2022年02月06日 11時00分
