迷子の人魚のメイコさん｜リアクション

迷子の人魚のメイコさん

●出逢い
「メイコさん、お待たせしやした！」
　もれいび達は源頼子に連れられて、待ち合わせ場所である、寝子ヶ浜海岸の端っこにやってきた。
　頼子の声に反応して、海からひょっこり出てきた頭は、そのまま砂浜のほうへ近づいてくる。
　海から現れたのは、青みがかった長い黒髪と珠の肌の少女……そして、鮮やかな青の鱗に包まれた魚の半身。
　彼女が待ち合わせていた人魚の妖怪に違いない。
「よ、頼子さん、ですか！？　私、メイコなのですが、もう、どうしたらいいか解らなくてぇ……！」
　よっぽど心細かったのだろう。
　メイコは今にも泣きだしそうな様子で、慌てふためいていた。

　初めて見る人魚の姿に、白石龍樹は驚きを隠せず。
「すげー、本物の人魚姫だ！　めちゃくちゃ喋れるんだな！？　人魚姫ってことは……王子様に会いに来たのか？」
　オレは助けられた覚えがないな……とこぼす龍樹に、
「メイコさんは迷子になっただけの、ただの人魚さんですよ！」
　思わず頼子もツッコミを入れる。
　……人魚を“ただの”といっていいかは、さておき。
「姫じゃないのかー。まーオレも王子じゃないしな」
　なんとなくガッカリした様子の龍樹であるが、一緒に来た八神修は度肝を抜かれた気分だった。
　迷子なだけのメイコであるが、寝子島的には“フツウ”を脅かす幻想の体現者。
『迷いこんだこと自体が、実は島の脅威となっている』とは、本人も思うまい。
「これは、源さんの言うとおり……“想像以上に危険な状況”かもな」
「足が魚だと動き回るのも大変そうッス！」
　“緊急事態”とは聞いていた古尾桐子も、いかに『人魚が“フツウ”とかけ離れた存在』であるかを実感する。

　森篠奏子がその様子を見ていると、一羽のカナリアが空から降りてきた。
　カナリアは砂浜に降りると、姿を変えて……もれいび・桜井ラッセルが現れる。
「こんな所でなにしてるんだ、八神？」
「桜井か。実は迷子の人魚が現れたって聞いてな――」
　修が事情を説明していると、ラッセルの視界に困り顔のメイコが映りこむ。
　しょんぼり項垂れる姿に、本人も困り果てていることが伝わってくる。
「……わかった。これも縁だ、協力させてくれ」
「よーし、うちらでメイコちゃんを送り届けるッスよ！」
　ラッセルも協力を名乗り出て、桐子は『メイコの寝子島・脱出作戦』を宣言する――！

　課題となるのは、やはり人魚の尾ヒレをごまかす方法。
「どうしたらいいッスかね？」
「足、生えたりしないもんなー」
　桐子が首を傾げる傍ら、龍樹に「だから人魚姫ではありやせんよ！」と頼子がツッコミを飛ばす。
　……『人魚姫』というワードを耳にするや、ラッセルがパチン！と指を鳴らした。
「そうだ、演劇部から衣装を借りてくるか？　部員の俺なら持ち出しても問題にならない。女の子だからドレスとか、かわいいヤツがいいかな」
「いいなー！　あたしも人魚姫になりたーい！」
　奏子も『一緒にコスプレしたい』と勢いよく挙手！
　二人して同じような格好をすれば、ぱっと見、違和感を覚えることはなさそうだ。
「コスプレかー、いい考えだな！　あ、でも、メイコはどうやって連れて行くんだ？」
　龍樹の素朴で難しい疑問に、修がふと口を開く。
「そうだな……子供用のキャリーワゴンをレンタルするか？　屋根付きのタイプなら日除けも十分だろうしな」
　購入するには一台で数万……全員のお小遣いとバイト代を持ち寄っても、かなり厳しいお値段。
　だが、一日レンタルするくらいなら、そこまでお金はかからないハズ。
「それじゃ、ちょっくら準備してくるか……そうだ、最寄り駅の場所も教えてくれるか？」
　スマホで寝子島の全体マップを表示し、メイコに最寄り駅を教えてもらってから、ラッセルは寝子島高校に。
　修達はベビー用品のレンタルショップを探しに、一時解散。

　……準備を整え、いよいよメイコの寝子島脱出作戦が始まる！

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