迷子の人魚のメイコさん｜リアクション

迷子の人魚のメイコさん

●ミッション・スタート！
「人目が集まりすぎても困りやしょう。情報屋の源さんはここでお見送りです！　皆さんグッドラックですよー！」
　メイコに演劇部から借りた衣装を着てもらい、レンタルしたキャリーワゴンへ乗せる。
　頼子に見送られながら、五人は寝子ヶ浜海岸を出発した。
「最寄り駅の黄橡（きつるばみ）駅だけど、あの辺……《寝子ヶ浜交番》があったんだよな。注意しないと」
　寝子島高校の道すがら、黄橡駅の場所を確認したラッセルだが、思わぬ強敵に頭を抱える。

　だが、
「つまり、お巡りさんに見つからないようにする……ってことッスか！？」
「すげー！！　マジで映画みたいになってきたな？」
「ていうか、人魚のコスプレって動きにくいかも？　両脚まとめちゃってるからかなー」
　緊張感あふれるシチュエーションに、小学生トリオは胸の高鳴りを感じざるを得ないようだ。
　極秘の大作戦……『子供心を抑えろ』というほうが難しかろう。
「……これなら大丈夫そう、かな？」
「気負いすぎてカチコチになるよりはいいさ。頼もしい限りだ」
　楽観的に構える奏子達に、自分達のほうが気負っていたようだと、高校生コンビは笑みをこぼす。
　そして、ラッセルは「別行動をとる」と、その場を離れていった。

　海岸線と道路沿い……人目を避けるなら、この時期は海岸線のほうが人が多い。
　奏子達はあえて『寝子島街道の道路沿い』を経由して、黄橡（きつるばみ）駅へ向かうことにする。
　キャリーワゴン上にはドレスアップしたメイコと、人魚の格好をする奏子の二人。
　……どちらが人目を引くかといわれたら、一目瞭然である。
「メイコちゃん、気になるお店あった？　あ、ジュース飲む？　お水のほうがいい？　ついでに頭から被っとく？」
「あわわわ……お、落ち着いて下さい！　借りた衣装を汚したら怒られちゃいます！」
　賑やかすぎる奏子の勢いに、慌てふためくメイコは、掌を見せるようにして宥める。　
「着ぐるみって、顔出しててもメッチャ暑いんスね……うちも脱水症状になっちゃうッスぅ……」
　虎のきぐるみに身を包む桐子は、滝のような汗を流しつつ、ジュースをゴクゴク飲み下す。
　真っ先に桐子がダウンしそうだが、早急に解決する他ないようだ。
「がんばれ桐子！　俺もワゴン動かすの、がんばるぜ！」
　乗車人数二名ともなれば、それなりの重量が発生する……龍樹は修と二人で重いカートを動かしていく。

　夏の風に吹かれつつ移動する中、見慣れないものばかりのメイコは、あらゆるものに目移りしていた。
「修さん、あの細長い乗り物ってなんでしょう？」
「あれはバスだね。決まったルートを移動していて、乗り合わせて使うんだ」
「まぁ！　では、あの素敵な音楽が聞こえる建物は？」
「CDショップかな、音楽が記録された円盤を売ってるんだ」
　感心しきりのメイコに、今度は修が質問を投げかける。
「そういえば、霊界の海から流れてきたって聞いたけど……どこかに行くところだったの？」
　修の問いにメイコは首を横に振り、
「お散歩に出ただけなんです。霊界も夏になって、今の時期は水がとても気持ちいいんですよ」
　冬の冷たく、暗い海も悪くないけれど……そういう人魚は楽しげに顔を綻ばせる。
『散歩好きな人間』と似たようなモノなのだろう。

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