迷子の人魚のメイコさん｜リアクション

迷子の人魚のメイコさん

「うちも水泳の授業は大好きッス、楽しいッスよね。楽しいといえば、カプギアッス！　れーかいにもカプギアあったりするッスか？」
「かぷぎあ？の付喪神は、聞いたことがありますｇ「あ、カプギアってのは――」」
　メイコの返答より早く、桐子はカプギアの魅力について、熱心に語り始める。
　本気で“好き”を語る者の言葉は、聞く者も楽しくさせる。
　……楽しそうに語る桐子に、メイコは興味深そうに耳を傾けていた。
「桐子さん、かぷぎあが大好きなんですね。でも、霊界には捨てられたモノか、壊れて動かなくなったモノしかないと思うんですよね……」
「そのときはうちが用意しておくッス！　それで、うちがごきょーじゅするッス！」
　いつか一緒に遊ぼうと誘う桐子に、メイコも「ありがとうございます」と微笑む。

　やいやいと賑やかな空気に包まれる中、むせ返る熱気と重労働に、龍樹は体力を削がれ、
「修にーちゃん、ちょっと休んでもいいか？　喉渇いてきたぜ」
「そうだな……桜井も呼んで、少し休憩しようか」
　照りつける灼熱の太陽を避けるように、キャリーワゴンをスイーツの出店に幅寄せ。
　遠巻きに見守っていたラッセルと合流し、六人でデザート休憩を始める。
「……なあ、人魚ってやっぱ暑いの苦手なのか？」
「陽射しの下に居続けるのは、ちょっと苦手かもです」
　龍樹は「そっか」と短く返し、メイコのスイーツも選んでいく。
「暑い日に食べるソフトクリーム、マジ美味いよなー！」
「桜井、落とさないように気をつけろよ」
　口の中に広がる甘さと冷たさを堪能しつつ、ラッセルとともに修も氷菓子に舌鼓を打つ。

　桐子と奏子も、生クリームたっぷりのクレープを注文し、龍樹は二人分のカキ氷を購入。
「メイコ、カキ氷いるか？　暑い日のカキ氷って、すっげー美味いんだぜ！」
　龍樹の誘いに「いただきます」と遠慮がちに受け取り、メイコは一口。
　その様子に気付き、桐子と奏子も駆け寄ってくる。
「メイコちゃん、よかったらクレープと一口交換しよ！　甘くて美味しいよー？」
「うちもカキ氷とクレープで悩んでたんスよね、一口交換したいッス！」
　女子トークに発展して、おいてけぼりな龍樹であるが、メイコは龍樹にコクリと会釈してお礼を伝えた。

　さて、もれいび一行は休憩を済ませると、いよいよ寝子ヶ浜交番に差し掛かろうとしていた。
　霊界にある、黄橡（きつるばみ）駅がこの辺り。
　なんとか注目を浴びず、やり過ごしたいところ……そこで動きだしたのが、別行動を再開したラッセル。
「地図よし、トランペットよし、変装もいいな？　……そんじゃ、やるか」
　トレードマークの三つ編みはほどいて、緩めのウェーブヘアに。
　伊達眼鏡と派手めのアロハで観光客っぽく装い、ラッセルは交番近くでトランペットを吹きだす。
　……なお楽器は借り物、腕前は初心者レベルである。
『ボォォエエェェェェェェ～～～～～～～～……♪#♪^*♪』
　調子の狂った金管楽器の咆吼に、交番からお巡りさんが飛びだしてくる。
「寝子島はすばらしいデスねぇ！　バカンスにはベストなところデース！」
「ちょっとお兄さん、街中で演奏しちゃダメですよ」
「オーゥ、ポリスさんデスか？　この辺りの駅どこデスか？」
　どうやら交番にいた警察官は一人だけだったらしい。
　ラッセルが注意を逸らしている隙に、奏子達は交番の前を通り過ぎていく。
　……メイコとの別れは、着実に近づいていた。

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