開くは異世界の扉、逃げるは正体不明の少女｜リアクション

開くは異世界の扉、逃げるは正体不明の少女

　そこは異常な空間だった。
　周囲の景色は安定せず、常に赤い粒子のような物が流れている。床にもそれは同様だ。
　床も何もないように見えてそこに物質的な床がある。だが存在しているようで存在していない、足は付けるが、手で触れようとしても触れない。そんなあやふやな状態だった。
　白い生体装甲で身を包んだ魔獣たちが咆哮を上げながら御剣刀へと飛び掛かる。一体ではない、その数は数えることすら面倒なほどだ。
「……遅い、そんな動きでは俺は捉えられないっ！」

　がちんっと撃鉄が落ちるようなイメージの後、御剣の速度が上がる。誰よりも早い世界を駆けながら飛び掛かる魔獣の隙間を縫うように、御剣は走り抜けた。御剣が刀を鞘に納めた瞬間、世界の速度が戻り、白い剣閃が幾重にも輝く。
　魔獣【ドアスグル】は身体をズタズタに斬り裂かれ、飛び掛かった勢いそのままに地面へと倒れ伏した。そのどれもが動く気配はない。
「あひゃはっ！　やりますねぇっ！　ツクヨも楽しくなってきちゃいましたよぉっ！」
　上空から降ってきたのは金髪紅眼の女性【ツクヨ】だった。着物から零れそうな乳房を揺らしながら、赤い剣を振るい、刀身に付いた血を飛ばす。
　見れば、彼女の服から伸びる無数の赤い鎖がドアスグルたちを拘束していた。そのどれもが生命活動を停止している。恐らく、ここに来るまでに片づけたのだろう。
「俺だって負けていられないからな、この腕が動く限り、奴らを相手取ってやるさ。俺たちがこいつらを惹きつけ続ければ、先に進んだ仲間たちが楽できるだろうし」
　腰を深く落とし刀の柄に手を乗せる御剣を見てツクヨは楽しそうに笑う。戦闘狂でもある彼女の事、この状況を共に楽しめる相手がいて純粋に嬉しいのかもしれない。
「それならもっと派手に行きましょうかねぇっ！　アビス粒子、解放ッ！　いっきますよぉおおおーーッ！」
　ツクヨは黒い脚部の装甲を展開するとその隙間から赤い粒子であるアビス粒子を大量に噴き上げる。鮮血のような粒子を迸らせながらツクヨは身を屈めたまま魔獣の群れへと突っ込んだ。
　両手に顕現させた赤い剣を身体の勢いを使って思いっきり振り回す。その直後、衝撃波を伴う紅い閃光が炸裂した。
　直後、ツクヨから放射状に赤い鎖が放たれそれらがまるで大蛇のように暴れ狂う。
　魔獣たちはその鎖と閃光に吹き飛ばされて宙を舞った。脳筋一辺倒しか頭にない彼らでは勿論、空中で回避行動も防御もままならない。無様に手足をばたつかせるだけだ。
　そのタイミングを見て、御剣は走る。再び彼は加速すると、ゆっくりと振り回されるツクヨの鎖の中を掻い潜りながら御剣はひとつ、またひとつとドアスグルの首をはねていく。
　着地した御剣が刀を鞘に納めると世界の速度が戻る。首を失った白い魔獣の身体が雨の様に地へと降り注いだ。
　肩で息する御剣へツクヨが手をかざすと淡い緑色の光が彼を包む。温かい光に癒され、彼の身体に付いていた傷が徐々に塞がった。
「ありがとう、ツクヨ。これでまだ戦える」
「どういたしましてぇ。でもでも、体力はぁ戻らないので、きちんと配分してくださいねぇ？」
「疲労は回復しないってことか、わかった気を付けよう」
　再び刀を構えた御剣の隣でツクヨは赤い剣の切っ先を魔獣へと向ける。
「それじゃあ、もっともっと上げていきましょうかねぇ、あひゃはっ！　付いてこれますかぁ、カタナァ？」
「はは、誰に言ってるんだよ。お前との付き合いも長いんだ、そのぐらい問題ないさッ！」
　そう答えた御剣は狂気の笑顔を浮かべるツクヨと並び、いまだ増え続ける魔獣の群れへと駆けて行った。

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