寝子島は今何時？｜リアクション

寝子島は今何時？

●ぐるぐる回る寝子島の時間

　恵御納夏朝はその日、これといった目的もなく寝子島を散策していた。
　心地よい日光を楽しむように進んでいると、ふと違和感があった。その正体を探るために集中すると、自分の動きがわずかに遅くなっていた。しかし今度はふっと体の動きが早送りのようになる。

「え、なにこれ？」

　混乱する夏朝のもとにテオが現れて事情を説明した。どうやら寝子島に落ちてきた『時計』の影響らしい。さらに放置しておくと寝子島全体の正しい時間の流れが失われるという。

「時を狂わせるなら対処しないと！」

　夏朝はその時計を探すために駆けだした。少しでも早く走ろうと、自分にねこシールを貼り、ろっこん『重く軽く』で軽くする。

（急いで時計を探さないと）

　探している間にも時計の影響でスローモーションや早送りがランダムに繰り返される。状況は分かっていても、この繰り返しは内心戸惑うし、イライラも募る。それでも何とか動いて時計を探す。

「動けなくなるよりずっとまし……！」

　走り回るうちに、だんだん体の変化が大きくなるのを感じる。夏朝は時計のある場所に近づいていると思った。そして辿り着いた先は見慣れた寝子島高校。

「もしかして寝子高のなかに？」

　可能性は十分ある。生徒や教師など、人が多く集まる場所なので早めに対処したい。いびつな時間変化に耐えつつ、自分に降りかかる感覚を頼りに探す。そしてようやく茂みのなかにデジタル時計を見つけた。見た目はどこにでもありそうな代物だが、現在時刻を表示するはずの数字がでたらめに回っている。

「これだ！」

　確信を得た夏朝はすぐに壊そうと、それを掴んで振り上げた。そのときだった。背後から気配を感じる。彼女が振り返ると、そこには背の高い人影があった。男は仕舞った道具でふくれた作業着を身にまとい、夏朝を見つめている。

（……もしかして、時計の関係者？　職人？）

　少しだけ訪れた静寂は、職人の攻撃であっけなく破られる。

「こっちに攻撃してくるなら容赦しない！」

　咄嗟に避けた夏朝はろっこんの進化能力でねこシールを飛ばす。これで職人の体を重くして動きを制限する計画だ。何回か外れたのち、職人の左腕に命中した。途端、重りがついたかのようにその腕が下がる。

（これで……）

　なんとかなる、と思った。しかし職人はその腕を引きづるようにして迫ってくる。

「嘘でしょ！？」

　夏朝は驚きつつも折り畳み傘を構えると、柄の部分だけ伸ばして棍棒代わりにする。職人の右ストレートを傘で防ぐと、腕がじんわりと痺れた。

（我慢すれば何とか動ける……いや、動くしかない。寝子島の時がこれ以上狂わされる前に倒す！）

　夏朝は痺れを堪えながら、大きく振りかぶった。左腕のシールが効いて上手く動けない職人の頭に勢いよく下ろす。
　
「壊されたくなかったら、そもそも寝子島に落とすなーーー！」

　渾身の一撃が鈍い音を伴って決まった。職人は動かなくなり、徐々に薄くなると消えてしまった。おそらく元の世界に帰ったのだろう。そして騒動の発端である時計も破壊した。たびたび感じていた体の異変が無くなり、問題が解決したのだと肌で感じた。緊張が解けて安堵すると、体の力が抜けた。

「疲れた……帰りに猫さん撫でに行こうかな……？」

　大きく伸びをすると、折り畳み傘を仕舞った。

このページにイラストを設定する