寝子島は今何時？｜リアクション

寝子島は今何時？

●時計に触れる者として

　佐藤瀬莉は街を歩いていると、ふと時間の感覚がおかしいと思った。初めは気のせいかと思ったが、テオから話を聞いて事態を把握した。
　寝子島のどこかにある『時計』を壊せば、この状況を解決できるという。そう知って瀬莉は星ヶ丘でそれを探し始めた。住宅地の大通りから路地裏まで、文字通り隅から隅まで調べていく。

　しかし問題があった。季節は７月。もう夏本番である。一段と自己主張の強い太陽が、これでもかと日差しを注ぐ。ただでさえインドア派の瀬莉には甚だきつい。

（でも……時計がらみの事件を放っておくわけには……）

　彼女には将来時計職人になりたいと思っている。だからこそ、その時計が悪さをするなんて信じたくないし、もし本当にそうならば、それを無力化するのも大切なことだろう。
　そんなことを思いながら探し回り、気づけば星ヶ丘駅まで来ていた。いつのまにか住宅街から大移動をしていたらしい。時計の捜索を続けようと思ったとき、ふと違和感を覚える。

（この感覚！）

　それはテオと会う前に感じた、時間感覚の歪み。このあたりに、探している時計があるかもしれない。瀬莉が駅周辺をしらみつぶしに探すと、妙なところにデジタル式の置時計があった。見た目は普通の時計だが、時刻を表示する面の数字がでたらめに走っている。

「やっと見つけた……さあどうしよう」

　壊すにしても、手頃な道具も無い。

（だったら本体をどこかにぶつければ壊れる？）

　どうするか考えていると、背の高い巨漢がいきり立って瀬莉に襲い掛かって来た。彼女は反射的に飛びのく。

「このロリコン！」

　瀬莉の罵倒に一切怯む様子もなく、再び突進してくる。とても戦える相手ではない。彼女はその場から逃走した。

（もしかしたら、目当てはこの時計？）

　よく見ると、作業着のようなものを身に着けている。これを作った職人だろうか。

「よく分からないけど、とにかく逃げ回ろう」

　もし彼の目当てがこの時計なら、なおのこと手放せない。時計をどこかに投げつけても、もし壊れなかったら持っていかれる。なにか良い案はないかと考えながら逃げ続け、いつの間にか星ヶ丘マリーナまでやってきた。そして彼も追いかけることを止めず、ここまで付いてきている。

「なにかいい方法は……あっ」

　瀬莉はうっかり躓いてしまい、手に持っていた時計が海のほうへ飛んでいった。なんとか拾おうと手を伸ばしたが、遅かった。ポチャンという音とともに、体の感覚が戻るのを感じる。

「これってもしかして……時計壊れちゃったの？」

　そう考えるのが自然だろう。これで解決かと思ったが、ふと自分を追いかけてきた存在を思い出す。おそるおそる顔をあげて彼のほうをみる。すると先ほどまでの勢いは消え失せて、項垂れていた。哀愁の漂う姿のまま、透明になっていき、やがて消えた。元の世界に帰ったのかもしれない。

「今度こそ、本当に解決かな」

　大きく息を吐くと、瀬莉はようやく安心した気持ちになった。

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