寝子島は今何時？｜リアクション

寝子島は今何時？

●理不尽の積み重ね

　水上桜は九夜山への登山を余儀なくされていた。
　今日はそんな予定は全くなかったのだが、これには事情がある。

　話は少し遡る。
　シーサイドタウンを散歩していると体に異変を感じた。妙に時間感覚がおかしくて、早くなったり遅くなったりする。

「変な感じ」

　初めは気のせいかと思ったが、明らかに何らかの干渉を受けていると感じる。うっすらと嫌な予感はしていたが、テオから聞いた話が決定打となる。

「またか……また、またフツウかっ！」

　桜はガチギレしそうだった。
　なぜかこの超常現象もどきな異変に彼女はたびたび巻き込まれる。その理由は彼女にもわからない。今回は寝子島に別世界から『時計』が落ちてきた影響で、時間感覚が狂っているらしい。その時計を探すために九夜山に赴き、今に至る。

　体力面では水泳部で鍛えているから、山登り自体は苦にならない。
　それでもわが身に降りかかるフツウの理不尽さに内心は怒りが沸々と湧き上がるばかり。

「早く見つけて帰ろう」

　そう思いながらどうにか展望台までやってきた。自分に襲い掛かる時間の歪みがだいぶ強くなっているので、この近くにあるはずだ。

「しらみつぶしに探すしかないかぁ」
　
　それからしばらく時計探しが続いた。自分の感覚が不安定なのもあって、どれほど時間がかかったのか分からない。そしてようやく、目的のものを発見した。見た目は普通のデジタル時計だが、時刻を表示する部分の数字が定まらない。自分の経験しているデタラメな時間感覚をそのまま表しているように見えた。

「さあ見つけた以上こんなものは壊すに限る」

　そう思ったら、いきなり２メートル近い謎の男が襲い掛かって来た。戸惑う暇も無く、彼女は時計を抱えたまま必死になって逃げ回る。

「なんなの！？」

　ただ走る。それ以外になかった。
　しかしこのまま逃げ続けても捕まるだろうし、何より、今までため込んでいた不満の吐き口が必要だった。そう思ったとき、桜のなかで何かがふっと途切れた。

　やがて大男は桜に追い付き、対峙する。桜の手には例の時計が握られていた。彼が時計を取り返そうと腕を伸ばすと、まるでカウンターパンチのように時計を握った手を繰り出した。バキッと鈍い音が九夜山の森に響く。困惑する男に構わず、さらに追撃する。むやみやたらに滅多打ちに、まさにフルボッコと呼ぶにふさわしいラッシュだった。
　自分の身に降りかかる理不尽さにブチ切れて、今回の騒動の張本人に吐き出した。ふと我に返ると、時計は何か所もへこみ、数字も止まっている。そして不満のはけ口になった男は、かなりダメージを追っているようだった。もう時計を取り返す様子はなく、そのまま薄くなって消えてしまった。

　桜は、すっとした気持ちを抱いたまま九夜山を下りた。

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