寝子島は今何時？｜リアクション

寝子島は今何時？

●揺れ動く時間のなかで

　篠原翠響は部活のために寝子島高校へやってきた。練習用のウェアを着て柔軟運動でウォーミングアップをこなし、少しずつ体を慣らす。徐々に温まってきたらリボンを持って本格的に練習を始める。自分の動きを確認しながらやっていると、不意に体感時間が遅くなったような気がした。それにリボンの動きが妙にスローに見える。

（どういうこと？）

　自分の体やリボンを確認するが、どこもおかしい様子はない。訝しがりつつもリボンの練習を終えて、クラブの練習に切り替える。すると今度は逆に動きが早くなった。

（いくらなんでもこれはないでしょ……？）

　とは思いつつも、おもしろかったので色々試して遊んでみた。しかし明らかな異変であることは明白だった。

（流石にこの状況が長く続くのはまずいよね）

　そう感じ始めたところ、テオの声が脳裏に響き、事情を理解した。どうやら問題になっている『時計』は寝子島高校のどこかにあるらしい。

「でも、どこにあるんだろう？」

　場所を限定できても、見当もつかない。だから翠響は闇雲に探し回るほかない。効率が悪いことを自覚しつつも他に方法がない。練習着の上にジャージを着て、校内を探して回る。そうしたら、ある地点に来たところで、体に来る感覚がぐっと強まった。
　そのあたりを中心に探してみると、茂みのなかにその時計はあった。見た目はどこにでもありそうなデジタル時計だった。しかし時間を表示する面は数字がランダムに動いている。

「これを壊せばいいんだよね」

　地面にたたきつけようと腕を振り上げると、自分の背丈よりも高い影が見えた。顔をあげると、作業着を身にまとった男が立っている。そしてその視線は明らかに時計を持った翠響のほうを見ている。

（これは、まずいんじゃない？）

　そう感じた直後、男の手が鋭い速度で迫ってくる。翠響は咄嗟に避けると時計を抱えて走り出した。不幸中の幸いか、寝子島高校の敷地内は自分がよく知っている場所だ。どの道を使えば逃げ切れるか考えながら、ひたすら走る。
　それでも、男はどこまでも追ってくる。壊そうと思ってもなかなか隙が生まれない。男に邪魔をされず、かつ確実に壊せるタイミングが欲しい。それに時計の影響で自分の感じる時間が変化するのも辛いので、早めに壊してしまいたい。
　
（ここなら……）

　翠響はあえて部室棟の近くにある茂みに飛び込む。
　男も追いかけるように突っ込んできたが、木々が引っかかって動きが鈍くなる。そして翠響はすぐに茂みから出ると、地面めがけて時計を投げつけた。派手な音とともに時計がバラバラになる。すると翠響の感じていた異変も無くなった。
　茂みから出てきた男は事態を把握したのか、悲しそうな顔をすると、そのままスッと消えていった。

「これで解決したのかな」

　翠響はその場に腰を落ち着けた。流石に疲れたのでしばらく休んでから、体育館に戻った。

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