【星幽塔】第一階層　白夜祭り｜リアクション

【星幽塔】第一階層　白夜祭り

☆白夜の露

「今日は白夜祭り！　去年参加したら面白かったわ！」
　リプカ・ングルマは狐耳をぴこぴこ動かした。
　ほしびとであるリプカは星幽塔第一階層の、メゾン・ド・トロール2階に住んでいる。
「お腹空いてるからまずは屋台ね！」
　たくさんの屋台を見て、尻尾を振りながらリプカは迷う。
「ひとつだけならタダなんてすごい！　なに食べようかな？」
「お嬢ちゃん、一人かい？」
　そこへキツネの獣人の女性、フォルカ・ヴィクスンが声をかけてきた。
「そうよ。お姉さんも？」
「ああ。よかったら一緒に行こうか」
「うん。お姉さんは何食べる？　ドラゴンケバブ……？　クラーケン焼き……？　美味しそうなものがいっぱいあって悩んじゃう！　何から食べようかな？」
　屋台の品物の札を読みながら悩んでいるリプカ。
「あたしはドラゴンケバブにするよ」
「そうね、美味しそう！　リプカもひとつ貰うわ！」
　二人はドラゴンケバブを受け取り、食べ始めた。
「もぐもぐ……美味しい！」
「美味いね」
「あっ、隣にはベリージュースの屋台があるの？　そっちも飲みたい！」
　ひと時もじっとしていないリプカに、フォルカは目を細める。
「お嬢ちゃんは何か仕事をしてるのかい？」
「ええ、トレジャーハントと賞金稼ぎで稼いでるわ」
「へえ、それじゃ同業だね」
「お姉さんも？　仲間だね」　
　正確に言えばフォルカは盗賊だが、そこまで正直に言うつもりはない。
　仕事の下見帰りに祭りを見かけふらりと立ち寄り、リプカの狐耳にかつての自分を重ねての気まぐれだった。
　目利きが得意なフォルカは、リプカが迷子でないのはすぐにわかった。

「お腹いっぱい！　次は噴水ショーを見に行くわね！」
　光と共に吹き上がる水柱を、リプカは目を輝かせて見上げる。
「わー……！　綺麗……！！　凄い！」
　その様子をフォルカは黙って見つめていた。
（こんな時期があたしにもあったんだよね）　
　
「あっ、白夜の露！」
　白夜の露と書かれた移動屋台を見つけたリプカが、声を上げる。
「去年は断られちゃったけど、リプカ、大人になったもん！　大丈夫よね？」
　その言葉にフォルカは首を傾げた。
「えっ？　年で断られた？」
「ひとつください！」
「……ごめんお嬢ちゃん、売り切れなんだ」
　店員が答える。
「……え、だめ？」
　しょげた顔になるリプカに、フォルカは割って入っていた。
「そこにもう一人分あるように見えるけどね？　あたしの見間違いかい？」
「……見つかっちゃったか。一人分だけだよ」
　気押されたように店員が器を差し出す。
　リプカの顔がぱっと輝いた。
「ありがとう！　あ、お姉さんと半分こしよう」
「いいのかい？」
「うん！」
　リプカは神妙な顔で器を傾け、白夜の露を口にする。
「おいしい！　不思議な味！」
「ああ……染みわたるね」
　二人は並んで椅子に腰かけ、白夜の露のさわやかな甘さを味わった。

このページにイラストを設定する