ブルーベリー・パニック！｜リアクション

ブルーベリー・パニック！

（えっとぉ？）
　ここはブルーベリー農園じゃなかったのか。
　伊賀は周囲で繰り広げられるめくるめく世界に頬をひきつらせる。
　はたと気が付けば、平和な農園はエロスの咲き乱れるイカガワシさ満点のピンク農園に早変わりである。
　何処からともなく賛美歌代わりの悩ましいピアノの音色が響き、５．１サラウンドで思春期真っ盛りの荒い息遣いやら呻き声やらが響く異常空間が出来上がっている。
（困る……非常に困るぞっ）
　なにが困るって、一歩間違えると伊賀もピンク農園に漂うエロス成分の一部になってしまいそうなのが困る。
　いや無いだろうおまえら慎みをもて！　と叫びたいのに気を抜くと、そうだよな、熱いし脱いだら気持ちよさそうだし、とうっかり衣服に手をかけそうになるのである。
「くっ、これは、あれか！　ブルーベリーの仕業か！」
　ご明察ではあるが時すでに遅し。
　心臓はどきどき高鳴りっぱなしだし、頭はふわふわするし、なんだか無性に脱ぎたい。
（いやまて最後まておかしいだろうっ！）
　とにかく危険だ。
　暴走モードの誰かの犠牲になる危険性が一つ目。
　うっかり暴走して誰かを犠牲にする危険性が二つ目だ。
　危機感を感じで、人目に付かない場所に行こう、と一歩を踏み出した瞬間。
「みぃつけたぁ･･････」
「ひぃっ！」
　ゆらりと立ちふさがるのは横嶋。飢えた微笑みを浮かべる絵面はホラーでしかない。
「にょたいいいいいいいいいっっ！！」
　本能のままに謎の雄叫びを上げて横嶋が伊賀に襲いかかる！
「く、くるなぁっ！！」
　涙目で伊賀が逃げる。
　飛び掛ってきた横嶋の魔の手から、ぎりぎり逃れると、後ろも見ずに一目散に走り去る。
　捕獲に失敗した横嶋が、砂煙を上げて、ゆらりと立ち上がる。
「にょたぁいぃ……」
　お前は飢えた獣か。暴走した汎用人型決戦兵器か。
　おそらく飢えた獣だろう。
「スゥカァートォをぉー……めくらせろおおおおおおっ！！」
　欲望に正直すぎる雄たけびを上げ、横嶋、リフト・オフ！
　そのただならぬ気迫に焦った、伊賀の足がもつれた！
「うわっ」
　よろめいた伊賀が転ぶ。
「し、しまった！」
「ふふふふふ……」
　振り返った先には、勝利を確信した暴走変態紳士、横嶋！
「スカート……おっぱい……」
　じりじりと距離を縮めてくる。
「く、くるなぁっ！」
　えっちな気分など吹っ飛ぶ恐怖である。伊賀は涙目だ。
「にょたいいいいいいいいぶごっ」
　叫んだ横嶋の口に白ブルーベリージュース入りペットボトルがクリーンヒット！
　ばたん、と電池が切れたように横嶋が倒れこむ。
「えっちなのはいけないんじゃないかな？かな？」
　涙目の新井が投擲したペットボトルの中身がごくごくと減っていく。
「へ？」
「だ、だいじょうぶ？」
「あ、えっと……」
　伊賀がぽかん、として新井と横嶋を見比べる。
「あれ、八神くんが作った、白いブルーベリーのジュースでっ」
「白？」
「そ、そう！　なんか青のブルーベリーの効果、消してくれるみたいでっ」
　あわあわと説明する。
「じゃ、じゃあ……」
「うん、も、だいじょ……」
　新井が言い終わる前にゆっくりと横嶋が起き上がる。
「「！？」」
　その口元からぽろり、とペットボトルが零れ落ちた。二人が緊張の面持ちで横嶋の様子を伺う。
「……ん？　俺はどうしたんだ？」
「ひっ」
　びくっと伊賀が震えて新井の影に隠れる。
「やぁ、どうしたんだい。何かあったのか？」
　にっこりと爽やかな微笑を浮かべる横嶋の目が死んでいる。
　どうやらブルーベリーの効果が出ているようだ。
「ど、どどうしたもこうしたもあるかっ！　いきなり襲い掛かってきて」
「何！　それは怖かっただろう。不埒な輩がいるのか……紳士として見過ごせないな」
「「へ？」」
　見事に話がかみ合っていない。
「えっと、あの……」
　新井があわあわと突っ込もうとするが、無駄な爽やかさと状況の急展開に押されて、言葉が出てこない。
「ん？」
　横嶋が首をかしげた、その時！
「うわぁぁん、誰か助けてー！！」
　悲痛な高梨の悲鳴が農園に響いた。
「！　今行くぞ」
　声を聞くや否や、横嶋が走り出す。
「あ、ま、まてっ……くっ、追いかけるぞ！」
　あの横嶋である。しかもなんだか様子のおかしい横嶋である。
　一人で向かわせるわけにはいかない、と伊賀が走り出す。
「う、うんっ」
　正義の味方を自称する新井に異存があるはずもない。
　二人で横嶋を追いかける！

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ブルーベリー・パニック！

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