ブルーベリー・パニック！｜リアクション

ブルーベリー・パニック！

「･･････」
　無言でもくもくと二種類のブルーベリーを摘んでいるのは八神修。
　普段勉強に読書に、と酷使している目に良いと聞いてツアーに参加した男は、摘んだものを食べることなく、持ち込んだ袋にひたすら放り込んでいく。
「ん？　八神、食べないのか？」
　その様子に気が付いた市橋誉が近づいてきた。
「市橋か。持ち帰ってジャムにしようと思ってさ。そうなると纏まった量が必要だろう？」
　料理が得意な市橋は、すぐに合点がいったようで、なるほど、と頷く。
「故に今ここで食べている暇などない」
　きっりと、まるで事件発生時の様な決まった横顔である。が、彼が真面目に取り組んでいるのはあくまで平和なブルーベリー狩りである。一応。
「･･････枝を揺すって受け止めた方が効率的か」
「そっか。俺も持ち帰って何か作ろうとって八神っ！？」
　にこやかだった市橋が慌てて木を揺すろうとする八神の肩を押さえる。
「なんだ。この方が効率的だろう」
「いや、そうかもしれないけれど･･････」
「大丈夫だ。世の中には揺すって落として畑を洪水状態にした上で浮いてきたベリーを掬うという収穫方法もある。それと、何か作ったら分けてくれ」
　さらっと言い切られても、なかなか素直に納得できない所である。
「いやそれは構わないけど･･････」
（その収穫方法、確実にうちの国の農方じゃない）
　市橋が暴走気味の八神にどう返そうか悩んでいると、妙に爽やかな笑い声が響いた。
「ははは、君たちは面白いなぁ！」
　きらり、と白い歯を光らせ、爽やかに笑うのは横嶋下心。
　自他共に認める変態紳士である。
　数々のピンク伝説を持つこの男に、面白い、と評された二人は複雑そうに眉をしかめた。
「こんなに素晴らしい天気に恵まれて、しかもこんなにおいしいブルーベリーがたわわに実っている！　それなのに食べないなんてもったいないじゃないか！」
　ははははは、と爽やかに笑いながら横嶋が素早く二人の口に青いブルーベリーを放り込む。
「んぐっ、なんだ」
「ちょ、んっなにするっ」
「美味いだろ？」
　にやりと笑って横嶋もブルーベリーを食べる。
「ふふ、手首の素早いスナップ……正確な狙い……これも日々、いかに素早くスカートをめくれるか研究しているおかげだね！」
　そう、彼は寝子高の変態紳士。羞恥心を置いて来た男である。
「横嶋は、もう少し別の方向にそのエネルギーを使えないのか？」
　八神がため息をつく。
　口の中はブルーベリーの甘酸っぱい味が広がっているが、横嶋の爽やかさに比例してなんともいえない疲労感が襲ってくる。
「何を言ってるんだい？　こんなに素晴らしい機会、めったにないだろう？」
　普段温存しているエネルギーを、ここで使わないでどうするのだ、と横嶋が鼻息を荒くする。
「素晴らしい機会？」
　ん？　と首をかしげる八神に、ふふふふふ、と不気味な微笑を浮かべて、横嶋が握りこぶしを天に突き上げる。
「ブルーベリーは目に良いし、何よりそこのを食べたらエッチな気分になっちゃうって噂があるんだ！」
「「はぁ？」」
　荒唐無稽な話に八神と市橋がきれいにハモる。
「エッチな気分になっちゃった女の子にエッチな事をしても問題ないよね？　ねっ！？」
　同意を求められても、あらゆる意味で肯けるはずもない。
「合法的におっぱい揉める方法キタコレ。ブルーベリー食べ放題！　女の子にエッチな事し放題！　もう、このツアーサイコーーーーー！」
　横嶋の主張に、反論を試みようとして、市橋は諦めた。
「･･････いや、うん、美味しいよな、ブルーベリー」
　全てを受け流して、ブルーベリーを食べる。
「そうだな、白いブルーベリーも美味しかったよ！」
　横嶋の爽やかな笑みにため息をついて、八神は再びせっせとブルーベリーを収穫しだした。
（噂、か……）
　その口元が小さく笑っていた……。

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