ハッピーバースデー！　６月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　６月☆

☆セルゲイ・ボスコフの誕生日

　東欧の母国で悠々自適な生活を送っていたはずのセルゲイが、教会の前で倒れていたところを発見されたのが数か月前。
　しばらく検査入院したものの、体に目立った傷や別状はありませんでした。
　家族の話では、ホリデーを使った旅行で日本へ向かうとしていた時期から母国で行方不明となっていたということでした。
　行方不明になった１年ほどの間どこでどうしていたのか思い出せません。
　警察から、自分のものとそっくりなパスポートが、日本で見つかったと告げられ。
　記憶の無い期間、1年も日本に渡航していたらしく、身に覚えのない期限超過の件で警察の事情聴取も受ける羽目になったのでした。
「ネコジマ？　……なぜ私はそこに？」
　その後、銀行口座に覚えのない多額の振り込みを見つけ、セルゲイの戸惑いはますます大きなものとなりました。
　　　
　家族に別れを告げて母国から旅立って数日。
　セルゲイは自分が滞在していた足取りをたどり寝子島にいました。
　もともと日本へ行きたくて留学プログラムを受け日本語も習っていたので、一人旅でも不自由することはありません。
　しかし思い出せることはなく、セルゲイの心は晴れません。
「どうしてかな……」
（憧れの日本に来たのに、人々の反応は冷たいような気が……）
　　
　今日６月６日はセルゲイの誕生日ですが、彼はこの日があまり好きではありません。
（子供の時はこの生まれた日のおかげで、悪魔の子供だとかケダモノといわれてからかわれたな）
　日本流の柔道を習って、身体を鍛えてからはそんなことはなくなりましたが。
「心頭滅却すれば火もまた涼し」
　かつて日本の師範が教えてくれたこの言葉もセルゲイを助けてくれました。
　とはいえ、嫌な日に生まれたものだという気持ちは根強く残っていました。
　スマートフォンに通知が来ているのに気づきメールをを開けば、思いがけず誕生祝いのメッセージが届いていました。
『お誕生日おめでとう、愛するセルゲイ。元気でいるかい？　早く笑顔を見せてくれることを楽しみにしてるよ』
『愛しいセルゲイ、日本のキモノ美人に気持ちを揺らしていないか私は心配です。遠く離れていてもいつもあなたのことを思っています』
　母国の家族や恋人からのそんなメッセージに、セルゲイはとても励まされました。
（何か手掛かりが掴めたら戻ろう、そして日本は良い国だったと教えてあげたい）
　感謝のメールを書きながら、セルゲイはそう思うのでした。

　そのためにも、聞き込みをしなくてはなりません。
「こんにちは。私はセルゲイ・ボスコフデス。私の名前に聞き覚えがあるデスか？」
　手当たり次第に声をかけていきます。
　声をかけられた、制服を着た金髪の少女、アシュリー・アンダーソンは戸惑いました。
「すまないが、覚えがないな」
　立ち去るアシュリーの後姿に、セルゲイは肩を落とします。
　
　それでも聞き込みを続けると、一人の青年が反応してくれました。
「セルゲイ？　聞いたことあるけど……あなたとは全然別人だよ」
「別人？　どのように？」
　目の色を変えて食いつくセルゲイの反応に気おされたように、相手は逃げ腰になりました。
「だってあいつは熊みたいなガタイしてたし、雰囲気も全然……あ、急いでるんでこれで」
「あっ、待って……」
　走り去る前の青年の顔に一瞬嫌悪が浮かんだ気がして。
　手を伸ばしたまま、セルゲイは呆然とつぶやきます。
「ワタシはこの街で、一体なにをしていたのデスカ？」

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