ハッピーバースデー！　６月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　６月☆

☆青山絢の誕生日

「お誕生日おめでとう。それじゃ、行ってきます」
　従姉の水谷真優理に声をかけられ、絢はもう6月1日だと気が付きました。
（今日で18歳になるんだ）
　去年は真優理に超高級ホテルのステッラ・デッラ・コリーナで盛大に祝ってもらいましたが、今年は従姉は研修で東京に出掛けるのです。

　おひとりさまの誕生日、になるはずでしたが、演劇部の子たちと一緒に遊びにでかけることになりました。
「お誕生日おめでとうございます！　ってことで、Ｔシャツつかみ取りセール行きましょう！」
「なんでそのチョイス？」
　最初に皆で向かったのは寝子島アウトレットでのＴシャツつかみ取りセールで、これには絢も苦笑しました。
　かなり前に一人で行ったことがありますが、相変わらずすごい人だかりでした。
　演劇部にとっては稽古用のTシャツはユニフォーム代わり、普段着にもなるし何枚あっても困りません。
「さあ、Ｔシャツをゲットするわよ！」
「おー！」
　というわけで、みんなで人の波をかき分け、熱気の中Tシャツを取り合います。
　もみくちゃになりつつ取れるだけＴシャツをゲットして、再び集合しました。
「はあ……日頃のトレーニングの結果が発揮されたわ」
「どんなトレーニングよ？」
　皆は戦利品を見せ合います。
「何それ！　怪しいネズミ！」
「そっちなんて『焼肉定食』って書いてあるじゃない！」
　みんな変なものばかりゲットしていて、バカみたいに笑い合いました。
　物静かな印象の絢は、騒がしいのが好きではないようにも見えますが、そんなことはないのです。
　絢がゲットしたのは、デッサンの怪しいネズミの柄、黄色い文字で『ら！』と書かれたもの、ユーモラスなお化けの柄、『mobs』と書かれたTシャツなどでした。

　それから大観覧車に乗ったりして午前中を過ごし。
　午後には寝子島映画村へ向かいました。
　ちょうど時代劇が撮影中で、剣劇シーンに興奮したり、恐竜のアトラクションを見たりして満喫したのでした。
（将来ここに女優として訪れる日が来るのかな……）
　女優志望の絢はそんなことを思い。
（ううん、必ず来るの）
　胸の中で決意するのでした。

　一方、研修に出掛けた真優理は。
（絢ちゃんの誕生日……本当は今日は休みを取って祝いたかった）
　去年は社員優待で絢ちゃんの誕生日を職場のホテルで祝い、この仕事してて良かった！　と思ったものでしたが。
　しかし今年は──年に１回か２回ぐらいの研修に当たってしまったのです。
（１日で終われば、なんとか……）
　と思っていたのですが、なぜか今年は明日の午後３時まで終わらないという事態。
（……どうしてこうなった？！）
　表面上、真面目に講師の話を聞いているふりをしているものの、心は上の空で。
（絢ちゃん、今どうしてるのかしら……ぼっちの誕生日だなんて、寂しがっていないかしら）
　と、気がかりでなりません。
　一応は朝お祝いを言ったけど、それだけでは物足りない……
（ああ、もう研修なんてすっぽかせばいいようなものを）　
　などと社会人としてあるまじきことを思ってしまう真優理ですが。
　職務上どうしても受けないとならないセミナーもこの研修には含まれているので、さすがにそういうわけにもいかず。
　結局悶々としながら研修を受けているのでした。
　業界では若くして有能なコンシェルジュとして知られている真優理ですが、中身は残念な従妹ＬＯＶＥなアラサーお姉さんでした。

（やっと終わった！）
　研修を終えた真優理は、走り去りたい気持ちをかろうじて抑えながら、周囲のお誘いとかを丁重に断り。
　速攻でプレゼントを購入に向かったのでした。
（去年はコスメだったけど、今年は……）

　友達と楽しい一日を過ごして帰宅した絢は、走ってきた真優理と鉢合わせしました。
「真優理さん？　どうしたの？」
　驚く絢に、真優理は息を切らしながら手に持った袋を差し出します。
「ただいま絢ちゃん！　遅れてごめんね、お誕生日おめでとう！」
　二度目のおめでとうと共に、真優理が渡したのは、誕生日プレゼントのお財布とケーキでした。
「ありがとう、真優理さん」
　友達に祝ってもらったのも楽しかったけれど、やっぱり家族からのお祝いは特別だなと、絢は思うのでした。

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