文房具まつりがやってきた！｜リアクション

文房具まつりがやってきた！

「ちょっとした日記に、かわいいスタンプはいかがですかー？　動物スタンプ各種ございます！」
「インクの沼に、あなたもどっぷり浸かってみませんか？　文房具祭り限定色、残り僅かです！　試し書きもやってまーす！」
　呼び込みは他にも、動物ふせん詰め合わせ、マスキングテープバイキングなど色々ある。絢の周り中全てから誘惑が押し寄せるのだ。
「真優理さん、あの柴犬のふせん可愛いね。クリアファイルとお揃いか……たぬきのスタンプもいいし……
あー、もうどうしよう」
「うふふ、若人が迷うのも青春ね」
　全て買える程お金持ちでは無いし、全部使える訳もない。目移りしてしまう絢の視線を射止めたのは、
『猫の穴』の日記帳だ。
　値段を見て、絢は迷った。さっき買った万年筆の事もあるし、呼び込みの動物スタンプも捨てがたい。
それに、これから別の店で欲しいものが見つかる可能性だって、ゼロではないのだ。
「うーん……」
　深緑色の表紙に、金の文鳥が箔押しされた日記帳を見つめていると、真優理に肩を叩かれた。
「ねぇ、絢ちゃん。さっきのねこさんセットは私がプレゼントするから、日記を買っちゃいなさいよ」
「え？　でも……それじゃ悪いわ」
「いいのよ、学生はそういう事気にしないで。絢ちゃんの誕生日、６月１日だったでしょ？　プレゼントがまだだったから、受け取ってちょうだい」
「本当に？　いいの？」
「もちろんよ。ダメだったらこんな事言わないわ」
　笑顔の真優理に頭をなでられ、絢は改めてバックにある象牙色の万年筆を見つめた。
「……うん。真優理さん、ありがとう」
　こうして、絢は『猫の穴』から深緑色の日記帳をお迎えすることになったのである。

◆

　スケッチブックを買った後、真瞭は海のアドバイスでちぎり絵用のマスキングテープを購入。そして、手紙でも書こうかと青猫堂へ引き寄せられていた。
「……きれい」
　彼女の目前にずらりと、色とりどりのガラスペンが並んでいる。軸とペン先がガラスで一体成形されており、インクに浸して書く筆記具なのだ。
　軸には単色もあれば、縞模様、マーブル柄もある。ケース内に輝きが連なる様は宝石のようだ。
　真瞭は店員に簡単な説明を受け、青いマーブル柄のペンをそっと手に取り、試し書きしてみる。
「少し硬めの書き味なのね」
　手に馴染む感触に、ガラスペンとインクのセットを買う事にする。
　店員にいくつか質問し、ペンに合うレトロなレターセットと白い葉書を選んで貰い、買い物は終了。
　真瞭はほっと息をついた。

◆

　海はごっそりと品物の入ったショッピングバックを抱え、ほくほく顔で歩いていた。

（大漁大漁ー……猫の穴は色鉛筆セットが良かったけど、メモ帳も素敵だから３種買っちゃった）

　横罫線の日記とは違い、同デザインで手のひらサイズのメモ帳は方眼罫になっている。落ち着いた色味と動物の箔押しはそのままに、お手頃価格なのだ。
　そのほかに銀色のチューブが輝く水彩絵の具と、新品の筆。簡単に水墨画風の絵が描ける薄墨の筆ペンや、蜜蝋を使ったクレヨンなど。
　他の店にも足を伸ばし、水彩色鉛筆やちぎり絵用のマスキングテープも確保。

（あの深林さんって人、喜んで貰えてよかったなー……）

　ヴァイオリニストだという彼女を店に案内し、ちぎり絵体験をしたのも楽しかった。
　すっかり重くなったバックを手に歩いていると、日記を手に話している少女たち――タルトと千恵とすれ違う。
「お洒落な日記帳だね、千恵ちゃん。鍵つきってことは、どんな秘密を書いちゃうのかな？」
「もー、タルトお姉さんったら！　話しちゃったら秘密にならないでしょ？」
「えー、教えてよー」
　笑いあう２人に、つい海も笑顔になってしまう。行く手に見えてきたのは青猫堂だ。

（私は日記書かないけど……あのお店では万年筆を売ってるんだ。持ち歩きにはどうなんだろう？）

　青猫堂に行き、店員に質問すると試し書きの後、持ち歩き用のケースを教えてくれた。

（うーん……でも、部屋で使うようにすればその辺は関係ないかな）

　海はコレクションの意味合いも兼ねて、初心者用の『野原のうさぎさんセット』を手に取った。

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