追いかけっこ物語～妖怪・おおねこ編～｜リアクション

追いかけっこ物語～妖怪・おおねこ編～

　◆第三章「ねむくな～る、ねむくな～る」

　また別の日。
　ここ数日、とんでもなく大きな猫が現れるという噂を聞いた三毛谷道哉はシーサイドタウンへとやってきていた。
　どのような猫なのか、どのくらいの大きさなのかまでは噂の又聞きで推察の域から出ることはないのだが、ひとまず大きな猫だというのならば何かしら用意はしておいたほうがいいのではないか、と考える。

「む？」

　ふと、通りがかった商店に売り出されていた熊手が目についた。
　握りやすいグリップ、土を掻き出しやすいように工夫された爪先。その様相はまさに熊の手と言わんばかりのゴツさだが、おおねこ相手にするのなら何かしらの装備が必要かもしれないと思い、購入しておいた。

「ぶらし代わりになれば儲けものだ。背中の方に飛び乗れれば、使ってやるとするか」

　購入したぶらし――もとい熊手をすぐに使えるように、片手に持って道哉は再び道を歩く。

「なんで！！　また！！　俺！！！」

　瑞毅の悲鳴が響き渡っている。どうにも、おおねこは彼の反応に味を占めたらしい。

　そんな彼の悲鳴を聞きつけて、道哉は声のする方向へと走っておおねこと瑞毅の追いかけっこに追いついた。もちろん、片手には購入した熊手。
　どうにかおおねこが彼を追いかける理由を聞き出せないかと考えたが、それよりも前におおねこが道哉に対してねこぱんちを放つ。

「おぉっと！　……おいおい、落ち着けでっかいの！」

　猫又として、そして同じ猫として、声をかけてみる。おおねこは彼の声に反応を示して立ち止まるが、瑞毅（のコート）で遊びたいんだー！　と言わんばかりに大きく鳴いた。

「にゃ～～～ん！」
「お、おお、それなら私が代わりに遊ぶのはダメか？」

　道哉の問いかけに、やだ～！　というような鳴き声を上げたおおねこ。
　おおねこはまだまだ子供なのだろうか、自分のやりたいことはやらなきゃ気がすまない性格のようだ。

「うむぅ……ならば、仕方ない。少し背中に乗せさせてもらうぞ」

　飛びかかってきたおおねこの手を軽く弾き、くるりと体をねじって回避。その勢いを利用しておおねこの背中に飛び乗って、よーしよしと熊手を使って撫で始めた。

　本来であれば熊手は土を掻き出すもの、なのだが……。

「ふにゃ……」
「おお、おお、気持ち良いか？　ほれ、ここはどうだ？」
「にゃー……」

　おおねこのサイズにもなれば、熊手はただの孫の手みたいなものになるようだ。ざりざりと音が聞こえ、毛が少しずつ抜けていった。

　なんとも気持ち良いもののようで、おおねこはごろりと横になって道哉の施しを受け続ける。
　その合間にも道哉は色々と質問をしておおねこから情報を引き出した。

　どうやらおおねこは霊界からやってきたのは良いものの、街の中が楽しくて歩き回っていたら迷子になってしまって帰れなくなったという。
　どこにどの駅があるのか、どんな場所から帰れるのか。そういうところもきちんと聞いてから寝子島にやってきたのに、全部忘れてしまったという。

「ふむ。だが今日はもう遊び疲れただろう？」
「にゃあ……」
「ゆっくり休んで、明日から探し回ったほうが良さそうだな。ほれ、ねむくな～る、ねむくな～る」

　猫にとって１番気持ちいい部分を熊手で撫でてあげた道哉。
　おおねこはぐっすりと眠りについたため、今日の出来事はひとまず瑞毅に伝えておくようにしたようだ。

　――なぜだか、これは単なる勘なのだが。
　彼がまた違う日に巻き込まれるような気がしたために……。

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