くっついちゃった！｜リアクション

くっついちゃった！

●見えない存在

　今日最後の授業が終わると、神野美野梨は落ち着いた様子で教科書をしまった。廊下に出ると、これから帰る生徒や部活に向かう生徒とたびたびすれ違う。そうして歩いていたら餅々きなこを見かけた。どうやら気づいているのは美野梨だけのようだ。

（学校の中で会うなんて予想外ね）

　そもそも、きなこは幽霊なので見えなくても不思議はない。好奇心の赴くままにここへ遊びに来たのだろうか。

「きなこさん、こんにちは」
「こんにちは！」

　美野梨が話しかけると、きなこは元気いっぱいに返事をした。

「どうしてここに？」
「ねこたちとあそんでたんだよ！」

　きなこの話を要約すると、猫たちと遊んでいるうちに学校内に迷い込んだらしい。しかし悲観した様子はなく、むしろ学校に興味がありそうだ。

「もしよければ、ここを案内するわよ？」
「いいの？　ありがとう！」

　美野梨はきなことはぐれないように、その手を取った。並んで歩きながら、学校全体のことや各教室の特徴などを説明する。

「それであっちの教室が……あら？」

　ふと、きなこと繋いでいる手に違和感を覚えた。なぜか手が離れない。ぴったりとくっついてしまっているようだ。きなこもブンブンと音が聞こえそうなほど振ってみるが、全く離れない。
　幽霊とくっついてしまって離れない。見方によっては恐怖体験だが、美野梨の目は興味で輝いていた。

「離れない……？　これは取り憑いているのとは違うのかしら？　興味深いわね」

　幽霊をじっくり研究できることなんて、まず無い。
　これはすばらしいチャンスだと思った彼女は、きなこの了承を得て生物室に向かった。

（そういえば周囲の人から、きなこさんは見えないのよね）

　先ほどからずっと２人で歩いているが、誰にも突っ込まれないので、そういうことなんだろう。強いて挙げるなら、手の形が何かを握っているように見えるかもしれない。そう思っているうちに生物室に着いた。

　ここは生物部の活動場所だが出欠は自由だし、活動も個人の判断に任せられている。今日は誰も来ていないようなので、美野梨はきなこと検証を始める。それに普段ゆっくりと話すこともないので、色々尋ねてみる。

「物は掴めるの？　通り抜けたりは？」

　他にも写真に写るのかどうか、体重を図ったらどうなるのか。きなこ自身は普段意識しないかもしれないが、美野梨からすれば疑問は尽きない。また、きなこも試したことがないので、実験みたいに楽しんでいる。

　ひとしきり試したところで、美野梨はお茶を淹れる。きなこは遊び疲れて一休みする子供のように見えた。
　
「今日はありがとう。色々な発見があったわ」

　きなこは嬉しそうにほほ笑んだ。まったりとした雰囲気で雑談も楽しむ。美野梨はきなこから幽霊生活を聞き、また、きなこは美野梨のことを聞く。お互い知らないことが多く、さらなる発見や驚きがあった。

(失礼だけど、成仏したりはしないのかしら？)

　美野梨はふとそう思ったが、それを口にすることはなかった。
　話に夢中になっているうちに部屋が茜色に染まり始めたので、２人は学校を後にした。

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