くっついちゃった！｜リアクション

くっついちゃった！

●距離感

　その日は初夏の風が心地よく吹いていた。
　夏の訪れを感じる空気の中で、城山水樹とヒュー・ヒューバートは寝子島デートを楽しんでいた。お互いの指を恋人つなぎで絡ませつつ、シーサイドタウンをのんびりと歩いている。

「ヒュー、今日は風が気持ちいいわ」
「夏が来たって感じがする風だ。本当に晴れてよかったよ」
「ほんとにね。色々歩いて見てみましょう」

　フォトグラファーの彼と、モデル兼大学生の彼女。多忙な２人だが、それでも折を見てはこうして一緒に過ごす時間を作っている。前回のデートが４月の後半だから、約１ヶ月ぶりのデート。今回は特に目的地も決めず、初夏の寝子島を２人で手を繋ぎながら散策する。駅の近くは多くの人が行き交い、キャットロードも活気で満ちている。また、夏の始まりに向けたイベントや新商品の告知もいくつか見かけた。
　それらを見ながら雑談に花を咲かせていると、２人ともあることに気づいた。
　
「あれ……？」
「……え？」

　指を絡めたお互いの手がなぜか離れなくなってしまった。水樹が試しに指を開こうとするが、まるで動かない。ヒューも同じようにやってみるが変化なし。どうも神魂とやらの仕業らしい。そのことは水樹も気づいたようで、特に騒ぐことも無い。

　水樹は改めて繋いだ手を見てみる。普通なら慌ててもおかしくないところだけど、少し面食らったような表情が一瞬浮かんだだけだった。そして、ヒューに微笑みながら問いかける。

「ねえ、これでもう離れられなくなったね」

　その言葉に、彼も穏やかにほほ笑んで答える。　

「そうだね。じゃあ、このままデートの続きをしよう」

　そういって何事もなかったかのように再び歩き出した。
　ヒューは離れなくなった手を見つめる。絡めた指が離れなくなったせいか、いつも以上に互いの感情──お互いを慈しみ愛するという感情──が指先から伝わってくる。ふと水樹の視線を感じて顔をあげると、彼女の瞳と視線が合った。
　２人とも同じ身長だからどうしたって視線は合ってしまう。
　水樹はヒューに対する想いが募るのを感じる。相思相愛の仲で、何度も身体を重ねて愛を確かめ合ったけれど、それでも瞳と瞳が合えば途端に赤面し合う。しかも指を絡めたままで、なぜか離れられないまま。
　そのような状況で、いつも以上に赤面の度合いもドキドキも深すぎて止まらない。

（でも、だから嬉しい。だってその都度、私はヒューのことが好きなんだって再確認できるから）

　水樹は自然と身体を彼のほうに寄せる。ヒューも同じような気持ちだった。
　恋人という関係になってもう３年にもなろうかというのに、まだこんなふうに感じられること。彼女が一番大切にしているこの感情を、自分も共有できていること。それがとても嬉しかった。

「ねぇヒュー、海岸に行かない？」
「いいね、行こう」

　２人は街並みを抜けて寝子ヶ浜海岸へやってきた。初夏の海は荒れることなく、静かに波音を奏でている。水樹とヒューは互いに身を寄せ合いながら、ただその音を聞いていた。

（このままずっとこうしていたい）

　水樹はヒューに寄り添いながら、そう願った。それに応えるようにヒューも寄りかかる彼女を支えた。

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