くっついちゃった！｜リアクション

くっついちゃった！

●突然のピンチ

　羽生碧南は体育館でバスケ部の練習に励んでいた。部員同士の掛け声や床を蹴るシューズの音が響き渡る。来週には木天蓼女学院高校との練習試合が迫っている。バスケ部女子キャプテンである彼女は、それに向けて様々な練習や作戦を考えている。そこから得られた情報をもとに、その内容を変更したりと勝利を目指すことに余念がない。
　今日もその気持ちを抱いたまま、ボールの扱い方やフォーメーションを丹念に確認する。部員たちも彼女の指示を聞いて、コート内を走り回る。

「よし、みんな。一旦休憩にしよう」

　その一言を受けて、部員たちは体育館の端に移動して雑談を始める。もちろん水分を摂ったり、ストレッチで体をほぐすなど、体のケアも忘れない。碧南も休憩を少し挟んだ後、他の部員より早めにコートに戻る。まずは軽めのドリブルでウォーミングアップ。そして体が温まったら体の動かし方を見つつ、ドリブルの速度をあげる。そうして熱心にコートを走り回っていると、異変に気付いた。

（……あれ？　ボールが手から離れない）

　ドリブルの練習中、手のひらにボールがくっついてしまった。
　引き離そうとしたり、投げようとしたり試してみるが、一切離れる様子が無い。

（うそ……どうなってんの？）

　何度必死になって剥がしにかかっても効果が無い。
　碧南の不審な様子に気づいた２人の後輩――２年の浅見柚乃と１年の霧生愛が駆け寄る。

　例によって２人は碧南の危機を巡って火花を散らしているが、そんなことをやってる場合ではない。

（とりあえず、どう誤魔化すか……？）

　どこぞの少年向けサッカー漫画よろしく『ボールは友達』と主張するにはやや状況的に難しい。

「キャプテン、どうしたんですか……？」

　先ほどまで散っていた火花は無くなって、２人が碧南のことを見つめている。ずっと沈黙していた分、不審な空気が濃くなった気がする。

（……やばい、どうしよう？）

　冷や汗を感じながら、打開策を考える。
　そして碧南はいきなり走り出してダンクシュートを決める。もちろんボールは離れないので、決めるフリ。コートに着地してから、挑戦的に笑うと全部員に聞こえるように言い放った。

「私からボール奪ってごらん。できるかな？」

　休憩明けの合図にはちょうどよかったのかもしれない。柚乃と愛が最初に反応した。それに倣うように他の部員たちも走り出した。結局、一日中コートを走り回って、どうにか誤魔化した。

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