もちもち思い出、ねこじま和菓子ウィーク！｜リアクション

もちもち思い出、ねこじま和菓子ウィーク！

〇娘と一緒に

　ある晴れた６月の日曜日。
「和菓子ウィークですって。楓、和菓子屋さんでお菓子食べに行こうか」
「いくー！」
　１８歳のシングルマザー梓智依子は、４歳の娘の楓と一緒に和菓子ウィークを巡ることにした。

　店内に入ると、楓は目をきらきらさせてショーケースに張り付き、指をさす。
「ママ、おだんご！」
「はいはい」
　最初に立ち寄ったお店では、みたらし団子とお茶をいただいた。
「おいしいね」
　それはいいのだが。
「楓、ベタベタじゃない……こっち向いて、手を出して」
　タレでべとべとになった楓の手や口の回りを拭いてやる。
　苦笑しながら、不意に思う。
（幼かったころの自分も、こんな感じだったのだろうか）
　ここ最近、バイト先で辛いことがあった。
　祖父母が協力してくれるからやめてすぐ生活に困るようなことはないけれど、少しでも恩を返したくて生活費を入れている。
　あれから１か月ほどが過ぎたが、心に受けた傷は残っている。
（……でも、いいの。だって、私はこの子に逢いたかったんだ。そして今こうして出逢えて……本当に幸せよ）
　この子のためなら、悩みなんて吹っ飛んでしまう。だから辞めずに続けられる。
　黙ってしまった智依子に何かを察したのか、楓はキョトンとして、
「ママ、ママー、どうしたの」
　と呼びかけた。
　ハッと我に返った智依子は、
「次は何を食べようかなー、って考えてたの」
　と誤魔化した。
「かえではたいやきたべたいー」
「じゃあ、次はたい焼きにしましょうか」
「わーい！」
　飛び上がって喜ぶ楓。
　楓はたい焼きが大好きなのだ。

　次に入ったお店で、
「たい焼きを二つください。あんことクリームを一つずつ」
　智依子は楓の願い通りたい焼きを注文した。
「はんぶんこ！　はんぶんこね」
　あんこの頭とクリームのしっぽを両手に持って、美味しそうに順番にたい焼きを食べる楓。
　その様子に目を細めながら、改めて先ほどの想いを強くする。
（この子に逢えて、良かった）
　
「ごちそうさまでした」
　お腹はいっぱいになっていたけど、それから色々な店を巡った。
「おばあちゃんたちの分もお土産を買おうね」
　スタンプは無事全部集まった。

「たのしかったね」
「そうね」
　とても充実した一日だった、と思う。