もちもち思い出、ねこじま和菓子ウィーク！｜リアクション

もちもち思い出、ねこじま和菓子ウィーク！

〇先生と和菓子タイム

　寝子高３年の御巫時子は、和菓子ウィークの旧市街をふらふらしていた。
「わらび餅も、どら焼きも美味しそうです……どれも美味しそうな和菓子ばかりで悩みますね」
　迷えば結局両方買ってしまい、気が付けば手にする袋には沢山の和菓子がたまっていた。
「少し買い過ぎたでしょうか？」
　けれど、時子はいいことを思いついた。
（高校に尚輝先生に会いに行ってみましょう）
　尚輝先生は甘いものが好きだったはずだ。
（ふふっ、やっぱり一緒に食べたいですね）
　嬉しそうに笑い、足取りが軽くなる。

　化学室を覗くと、いつものように五十嵐尚輝先生の姿があった。
「尚輝先生、少し休憩しませんか？」
「御巫さん、こんにちは」
　時子はコーヒーを淹れて、買って来たいろいろな種類の和菓子を机に並べた。
「ねこじま和菓子ウィークですから、美味しそうな和菓子が多くて選ぶのが難しくて……」
「和菓子ウィーク？　たくさんありますね」
「先生はどれが好きですか？　あっ、羊羹は切り分けますね」
　食べやすいよう羊羹を切り分ける時子の傍らで、尚輝先生は考え込んでいるようだ。
「迷いますね……御巫さんはどれにするんですか？」　
「私はどら焼きをいただきます」
　時子はどら焼きを手にして、食べ始める。
「甘さも控えめでふわっとした皮と優しい餡が絶妙です」
　尚輝先生にそう言うと、時子は楊枝を取り出してわらび餅に刺した。
「わらび餅も美味しいです。尚輝先生もどうぞ」
　そのまま、あーんをするように、口元に差し出す。
　控えめに尚輝先生の口は開いた。
　そのままわらび餅を咀嚼する。
「……美味しいです」
　尚輝先生の言葉に、時子はにっこりする。
「よかったです。美味しいと共有したくなりますね。次は何にしますか？」
　
　羊羹を食べる尚輝先生に、
「今度一緒にお店回りませんか？　見て回るのも楽しいですよ」
　時子はスタンプラリーの紙を見せる。
「なるほど、結構集まっていますね」
「すべて集めるとねこじま羊羹がもらえるみたいです。あと少しなんですけどぜひ集めたいです」
「頑張ってください」　
「ねこじま羊羹も尚輝先生と食べたいです。それと……」
　さっきから先生の口元を見つめていた時子は、不意に人さし指をそこに近づけていった。
「先生、口にきな粉がついてますよ」
「えっ」
　時子はそっと先生の口元に触れ、きな粉をとってあげた。
「……ありがとうございます」
　そう言った尚輝先生の頬が、少しだけ赤らんで見えたのは、窓から差す夕日のせいだったろうか。