輝くような、普通の日｜リアクション

輝くような、普通の日

　◆第四章「まさかそんなところにいるとは」

　もうすぐ６月になろうとしている、とある日の朝５時のこと。
　ぱちりと目を覚ました三折部朝衣は少し早く起きてしまったので、時間を潰そうとスマホをぽちぽちと触っていた。
　ふと気になって、今日の天気を調べてみる。今日は真夏日になる予報となっており、６月に入る前だというのに暑さがとんでもないことになるという予報だった。

「……もしかして……」

　これだけ暑くなるなら、と波情報を調べてみる。
　情報では寝子ヶ浜海岸の波はそれほど高くはないが、午前中は十分楽しめるという記載。

　朝衣の趣味の１つ、サーフィン。
　ここ数日は波も高くなく、高かったとしても気温が冷たくあまり向いてない日が多かった。
　けれど今日は朝早くに起きて、絶好のサーフィン日和が訪れている。

　これを逃すわけには行かない。
　思い立った朝衣はウェットスーツを中に着込み、物置からサーフボードを引っ張り出してキャリアを取り付けた自転車に乗せて、いざ出発。

「きっと朝早く目が覚めたのは、楽しんでいらっしゃいという神様の天啓よね……！」

　立ち漕ぎで自転車を漕いで、寝子ヶ浜へと急いだ。

　平日の朝となれば、人気は少ない。
　それでも顔見知りのサーファー達が既に波に乗っていたため、軽く挨拶をして朝衣も準備に入った。

　着ている服をバッと脱いで、ウェットスーツ姿に切り替えて。
　入念にストレッチをして身体を解し、ウォームアップをしてから波に乗った。

　大きく上がる波の斜面にサーフボードを乗せ、立ち上がってバランスを取る。
　素早く的確に波を読まなければ綺麗に波に乗れないため、朝衣は集中して波に乗り続けていた。

　あまりにも楽しく、時間は早くも過ぎてゆく。
　気づけば朝衣が浜へ来て１時間。そろそろ出勤時間を迎える頃合いなため、朝衣は砂浜へと戻った。
　今から帰っても、シャワーを浴びても役場へ間に合うだろう。そう思って浜を離れようとしたところで、ふと朝衣の目に魚の着ぐるみのようなものが映り込んだ。

「……なんだろ、あれ」

　波打ち際に打ち上がっている、魚の着ぐるみのようなもの。中に人が入っている様子はないが、少々気味が悪い。
　不審そうに近づいてみると、突如朝衣に向けて声が聞こえてきた。

『お、おお……あの時のお嬢さんかのぅ……？』
「……えっ、魚神様？！」

　なんと浜に打ち上げられていた魚の着ぐるみっぽいそれは、小さく縮んでしまった魚神様。
　なんでも最近人々が魚食べないからか、信仰心が無くなった……？　と気になってしょげてしまった姿なのだという。

　そんなことで小さくなるんだと驚いたのも束の間、魚神様はガバッ！　と起き上がると朝衣にコンコンと説教し始めた。

『そもそものぅ、夏が近いから魚は食わん！　という輩が増え過ぎなんじゃ。魚を食え、魚を！　焼き魚とか煮魚以外にも、寿司とかあるじゃろ！』
「は、はあ……」
『だいたい近頃の子供たちは魚の骨が嫌いだからと食わず嫌いが多すぎる！　そこんところ、お嬢さんはどうお考えかの？』
「え、ええと、確かに教育課や給食センターからの報告は多いと聞いてます。具体的にどうするかはまだ……」
『まだ！？』
「うっ。す、すぐにどうにかします……」

　それから長いこと魚神様と話をしていた朝衣。
　１時間ほどの会話で満足したのか、魚神様を海へと還すことに成功した。

　なお、朝衣本人は就職以来初の遅刻をしてしまったことなど、魚神様は知る由もなかった――。

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