輝くような、普通の日｜リアクション

輝くような、普通の日

　◆第一章「和菓子で一息、ゆっくりと」

　シネマカフェ『クランク・イン』の帰り道、八神修と七夜あおいはゆるりとシーサイドタウンを歩いていた。
　２人が出向いたカフェでは古き良き旧作映画が見られることで有名で、今日は前々から見たかったエクソシストの映画を見に行こう！　と約束を取り合って見に行ったのだ。

　映画の内容は、まさに不条理な怖さが際立っていた。
　通例の透明な幽霊、死んだ者が生き返るゾンビ、黒いモヤのようなうごめくもの、etc、etc...
　思い出すだけでも色々な幽霊やオカルト的物体があったね、と修とあおいは感想を述べていた。

　そんな中で修とあおいの２人が思い出してしまったのは、とある日の鷺来瑞毅の授業。
　オカルト嫌いを豪語する彼の授業のなかでも、もっとも際立っていた日があったのだという。

「いつだったっけ、顔色悪そうにしてた日があったじゃない？　あの日、授業が１つ潰れたのよね……」
「ああ、確かテレビの撮影でオカルトの話聞いてきたってやつ。どんな話なのかめちゃくちゃ気になるよな」
「ねー。スペシャルになるって言ってたから、放映されるのが楽しみだね」
「そうだなあ。先生にはご愁傷様としか言えないけど……」

　他愛のない、映画の感想からちょっと伸びた別の話に少しだけ楽しさを感じた修。
　出来ることなら腰を落ち着けて、もう少しあおいと会話をしていたい。
　そんな気分がゆるゆると修を支配し始めた。

　そこへ、喫茶店『猫の宮』が目に留まる。
　いつだったか、猫生菓子というお菓子でねこったーやにゃんすたぐらむで少し有名になったお店だ。

　あおいを連れて扉を開けると、軽快な鈴の音に加えて、にゃぁんと猫の鳴き声がひとつ。
　三毛猫のナナが修とあおいに向けて挨拶をすると、てこてこと席へ案内してくれた。

　日の当たる暖かなテーブル席。店主の猫乃宮ヤマトがお冷とメニューを持ってきたので、和菓子をいくつか注文しておいた。

「ね、修君は今日の映画どうだった？」
「そうだな……中盤で出てきた少女の幽霊、アレは怖かったなって」
「あー！　わかる、わかるよ修君！　私もあの子、すっごく怖かった！」

　涙を浮かべそうな顔のあおいに、ナナがちょっぴりうろうろ。
　大丈夫だよと声をかけると、ナナはにゃっと軽く鳴いた。

　色々と映画の感想を述べていると、頼んだ和菓子――あんもちやみたらし団子が届けられる。
　感想もほどほどに和菓子を一口食べると……甘くて、優しい味が口いっぱいに広がる。
　美味しいねと２人で言い合っていると、ヤマトがお茶を差し出してくれた。

「ご来店ありがとうございます。お菓子だけでは甘ったるいでしょうから、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。……ところで、つかぬことをお聞きしますが……デートですか？」
「んぐっ！？」

　ヤマトの突然の問いかけにびっくりしてしまった修。あおいもあおいで、ちょっぴり顔を赤くしていた。
　そんな中で後ろでめちゃくちゃ光ったナナ。そっちにも驚いたものだから、咳き込んでしまった。
　その後、ナナはてしてしとヤマトの身体を猫パンチしながら、叱ってくれた。

『にゃー！　やまと、へんなことはきいちゃメッだよ！』
「え、変なことかなぁ。男女２人が一緒にいるのはデートだと思うけど……」
「その前に猫ちゃんが喋ってるのには驚かないんですね……？！」

　あおいのツッコミをよそに、ほわほわした様子のヤマト。
　そして、胸のドキドキが収まらない修。
　改めて言われると、これはデートなんだなと実感してしまったようで。

（……顔、赤くなってないよな……？）

　冷静を装い、飛び上がるほどに嬉しい感情を隠して、修は１日を満喫していた――。

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