とまどいエチュード｜リアクション

とまどいエチュード

（ちょっと待って……この衣装何よ……）
　自分の纏った衣装を見て、青山絢は力が抜けていくのを感じた。
　もはや予想された展開、といっても良いのかもしれないが、それでも自分は断じて、こういう格好を許容した訳ではない。

　突然、夢の舞台に召喚された。
　演技しろ、との天の声が響いた。
　もとより女優志望の彼女。演技は望むところだ。
　毅然と応じたところ、全身が光に包まれ――。

「これって――バニーガール？
　なんでバニースーツ……」
　なぜかバニー姿に縁がある彼女。
　確かに彼女、バニー姿はよく似合う。
　普段清楚で真面目な彼女、バニーの衣装をまとえば、雰囲気が一変する。
　すらりと際立つ長身、均整の取れたプロポーション。
　日頃の清純さに加え、濃厚な色気が漂い出す。
　含み笑いは魔性の笑みに。
　怒りは背筋を震わせる女王様の怒りに。
　確かに彼女、バニースーツを自分の一部として着こなし始めていた。本人は認めたくないのかも知れないが。
（しかも、今回の役は――）
　両手に持たれた「ブツ」を見て、彼女はどん引きする。
　両の手には拳銃。さらに背中には日本刀。
『恋に恋する恋狂いで戦闘狂なアサッシンバニー』
　こめかみを押える絢。
（どうして、こんなことに）
　が、次の瞬間、さっと顔を上げる。
　ヤケのヤンパチ、といった風情。
　自分は女優志望だ。
　自分以外に、誰がこのバニーを演じきれるというのか。
　これしきの困難で、負けてたまるか。

　演じきってやろうじゃない、いかれたバニーの暗殺者とやらを。

　銃口を舌で舐め上げて、絢は笑みを浮かべる。
「ウサギってね―――」