とまどいエチュード｜リアクション

とまどいエチュード

「やりきったか……」
　鴻上彰尋は全身をぐったり虚脱させていた。
　何もかも、すべてを出し切った。
　敵役、エキストラ、スタッフへの指示出し……。
　できることは全てやった。
「まだまだなんだろうけど……」
　彰尋は舞台を振り返る。
　それでも。
（それでも、あのシーンはうまくいったのかな）
　あの、王子の最後のシーン。
　祖父が、どんな風に演じるか。それだけを考えた。
　そしたら、ふっと『どうすればいいか』がやってきた。
　あの瞬間だけは、正解を導き出せた。
　あの瞬間だけは、満足のいく振る舞いができた。
　（こうして、俺が舞台で祖父さんと同じ役を演じる姿を見せたかったんだけど――）
　この世界へやってきたときと同様、光が視界に満ちあふれる。
　どうやら、この世界ともお別れだ。
　――ぱちぱちぱち。
　その瞬間、観客席からやや間遠な、力強い拍手の声が聞こえた。
　――あれは？
　あの拍手。
　聞き覚えがある。
　けして大きな音ではないが、心のこもった、演者への最高の敬意を示すときの拍手。
　あれは、祖父しかしない喝采だ。
（祖父さん？）
　闇に包まれた観客席。
　その中で、なぜか輝いて見えるその場所、
　ハンチング帽にチョッキ。英国紳士のような端正な服装。
（祖父さん！）
　彰尋は顔を上げる。
　力強く、ただ無言で拍手を送る、紳士のすがた。
　その顔を、彰尋は見ることはできない。
　その隣では、演劇の興奮からはしゃぐ子供の姿。
（それはまるで――）
　あの日の俺。
　いつか祖父さんのように、舞台に立つことを夢見た俺。
　彼らがそこにいた。
　その姿が涙ににじむ。
　感想を聞きたい。
　祖父と同じ、王という役を演じた喜びを伝えたい。
　だが――。
　言葉は不要だった。
　役者にとっては、鳴り止まない拍手だけが交わされることばなのだ。

　――あの子に届いていたらいいな。

　最後の意識の中で、彰尋はそう思った。

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あとがき

担当マスター：ぱーすぺ
ファンレターはマスターページから！

ありがとうございました！
お待たせしてしまい申し訳ございません。
今回はありがたいことに「マスターお任せ」の指定を多く頂き、そのせいで構成が膨らみすぎて大混乱に陥ってしまいました。
個々のキャラクター様の性格は変えずに、なるべく魅力的にーーということでアドリブを強めに打たせていただきました。
かなり異色のリアクションになりましたが、いかがだったでしょうか？
また機会がありましたら、よろしくお願いいたします。

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