とまどいエチュード｜リアクション

とまどいエチュード

「即興劇か……やっべーな……」
『夢の舞台』に召喚された桜井ラッセル。
　与えられたのは「暗黒街のボス」という役柄。
「王子のコスプレはやったことがあったけど……この手は初めてだな」
　非道なダークヒーロー。悪のカリスマ。
　演じるのにも説得力がなくてはならない。難しい役柄だ。
　不安がこみ上げる。
　だがその一方で、妙に高揚する自分も、ラッセルは感じていた。
「幽霊部員だけど……演劇部であるからには、妥協できねえ……」
　きっと宙を見据えるその目に、迷いの色はない。
　自分以外に、誰がこの大役をこなせるというのか。
「役になりきる――つまり一人の人間の生き様をみせるってことだ。
　俺にやりきれるか――腕の見せ所だ……」
　にやりと笑うラッセル。不安はあるが、なんとかこなしてみせる。
「くうう！　いいねえ！」
　どんな展開でもどんとこい、だ。

　と、その前に――。
　ラッセルは、観客席に向けてこう言い放った。

「一つ聞きたい。――あなた方を巻き込んでよろしいか？」　