とまどいエチュード｜リアクション

とまどいエチュード

　――ここ、どこですかぁ！

　同じくパーティ会場で、お嬢様なドレスに身を包み、喜矢武あいおは内心で絶叫していた。
　奇妙なことが立て続けに起こる寝子島、またも珍妙な事態が発生したようだ。
（即興で演技しろ、ってことですね……）
　また何か面倒っぽいことに巻き込まれた、とあいおは嘆息する。

（演技、ねぇ……）

　あいおの躊躇には、謂われがないわけではない。
　あいお自身に、演技の経験はないが、それ自体が躊躇の理由になるわけではない。

（姉さんはともかく……）

　彼女の、とても近しい存在。
　姉さんと呼びならわしているが、本当はそれよりも深く結びついた、とても大事な相手。
　魂を共有している、と言ってもいい。
　彼女のことなら手に取るようにわかるし、自分のことのように身に染みて納得できる。
「その人」は、演技の経験があった。

　あいおはそのことを知っている。
「その人」が舞台に立ち、見事な演技を披露したということを。
「その人」が、舞台上で発生したアクシデントに、彼女ならではの方法で対処し、見事に乗り切ったことも。

（演技の経験なんて、ないですよぉ……。
「記憶」としては、ありますけど）
　力なく笑う。
　――自分に「その人」ができたように、うまく演技ができるのだろうか？

　己にとって大事な存在、かけがえのない存在。
　だからこそ、自分と引き比べてしまう。
　自分が彼女の足を引っ張っていないだろうか。
　自分が彼女に比べて、見劣りする存在でないだろうか。

「その人」にとっての見事な成功体験を、自分が再演しなくてはならない。
　自分が、彼女の隣にいるにふさわしい人間であることを、証明しなくてはならない。
　無用なほどの彼女のプレッシャーは、彼女にとっての大切な存在に由来するものだったのだ。

　暗い客席。
　その中に「その人」がいるのかもしれない。
　鋭い視線で、自分を見ているのかもしれない。

　……いいえ！

　気合で気持ちを奮い立たせるあいお。
　臆していたのでは、できることもダメになってしまう。
「あの人」と一緒に、自分は栄えある賞を獲得したのではなったか。
　失敗を恐れてはいけない。
「やったことがないからこそ、挑戦できるチャンスです！」
　己を奮い立たせる。
「多少難しいことがあっても、勢いで押し通しますよ！」
　勇躍パーティ会場に躍り込む。
　悪役令嬢？
　あと何か、いろんな役？
　上等！　かましてやりますよぉ！

「――姉さん、そこで見ていてくださいねぇ！」

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