春を丸ごと！いただきますフェア｜リアクション

春を丸ごと！いただきますフェア

雨崎楓香は学食の入り口で辺りを見回していた。妹の雨崎穂香がこの辺りに遠征に来ているらしく、待ち合わせをしているのだ。丁度学食の開放をしているので、夕食を一緒に食べることになった。
「お姉ちゃん」
　手を振りながら歩みよってくる中学生が一人。ジャージ姿だった。
「その格好」
「学食のために練習終わって、急いで来たの。これでもちゃんと着替えたんだ」
　楓香は穂香と共に学食内へ。
「お姉ちゃん、何にするの？」
「わたしはかつお御前」
「同じのにしようかな？　迷うけど」
　と、楓香は前に並んでいた人物に見覚えがあることに気づいた。
「卵城先輩？」
振り返ったのは卵城秘月だった。
「やあ、楓香君。こちらは？」
「妹の穂香です」
「ああ、前に話していた子か。私は卵城秘月だ。よろしく」
　穂香は秘月の差し出した手を握った。
「雨崎穂香です」
　ふと、穂香は気づく。秘月の指が穂香の手の甲を器用にすりすりして来ていた。くすぐられているような感覚に少し戸惑うが、嫌いなスキンシップではない。
「先輩？　穂香？」
　楓香に声をかけられ、そこで秘月ははっとして、内心慌てて手を離した。表情は崩さない。余裕振ろう。
「いきなり悪かったね。手の感じでいうのもあれなんだが、バレーボールの経験があるのでは？」
「あ、分かるんですか？」
「ああ」
　尊敬の眼差しに感動していた。先輩としての威厳が回復していくようだ。
（もっと何か威厳を保つために何をすべきか）
　なんだかんだで三人で昼食を摂ることになった。
「楓香君もかつお御膳かい？」
「はい、って、マヨネーズ？」
「意外に合うんだよ」
「あたしも試そうかな？」
　そんなことを話している横で、並びながら穂香が唸っていた。
「決まった？　奢ってあげるから好きなの食いな」
「ほんと？　もう決まったんだ」
　注文品を受け取り、四人用の席に着席する。
　楓香は隣の穂香へ視線を向ける。
「鶏肉とじゃがいものバター炒め定食、白米を筍ご飯に変更。スタミナ丼……一品料理かつお、ホタルイカの小鉢……頼み過ぎじゃない？　がっつきすぎるとう動けなくなっちゃうよ」
　秘月は顎に手を当てた。
（二人ともデザートはまだ決めてないようだな）
　ここは先輩らしくスマートに行くしかない。
　秘月はすました顔でいただきますと呟き、
「よかったらマンゴーパフェを奢るよ。どうだい？」
「え、先輩のおごりですか？　わあ、ありがとうございます」
　感謝と尊敬の眼差しに、内心でガッツポーズをした。自分はケーキにして、皆でシェアというのも悪くない。
　と、楓香がじっとこちらを見ていることに気づいた。
「何かあったんですか？　嬉しそうですけど」
　嬉し過ぎて顔から漏れてしまったようだ。気持ちを引き締める。
「いや。なんでもない」
　震える手で、一緒に買ったアイスティーを飲もうとして手が滑ってしまった。
「きゃっ」
　楓香に思いっきりかかってしまった。
「すまない。すぐに拭くから」
「布巾借りてきます」
　穂香が席を立ったので、それまで自分のハンカチで拭くことにしたのだが、
（いい。楓香君の、この太もも、そして筋肉のついた脛と脹脛）
　肉体の感触が最高だ。
　拭いている先輩の様子に思う。
（うーん。手つきが怪しい）
　楓香の生暖かい視線に気づき、ゆっくりと離れる。
　咳払い。
「すまなかった」
「……やっぱり先輩は先輩ですね」
　笑顔とやや見下ろす視線。
　秘月は肩を落とす。
　罪悪感とダメな先輩だと苛まれる日々は続きそうである。

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