異界動物保護特区へようこそ｜リアクション

異界動物保護特区へようこそ

●好奇心の行き先

　神野美野梨は気づいたときには海辺に居た。
　しかし寝子島の海ではないことにすぐに気づく。

（どこか別の空間なのかしら）

　体に傷や痛みはなく、意識もはっきりしている。少なくとも危険な状態や状況ではなさそうだ。眼前に広がる、全く知らない景色に対する恐れは無く、この世界への好奇心が彼女のなかで膨らんでいく。
　さっそくその辺りを歩いてみる。海辺には貝やカニの姿があるが、普段見るものとは明らかに違った。貝の模様は風や波を受けるたびに、背景に合わせて変色したり、殻の形ごと変わっている。カニの背中は特徴的に盛り上がっていて、まるで小さな遺跡が乗っているようにさえ見えた。

（寝子島とは根本的に違うみたいね）

　もしかしたら貝やカニのように見えて、別の生き物の可能性もある。そんな不思議な存在をいくつも目にするうち、美野梨はある鳥と出会った。手のひらサイズのそれは、空ではなく海のなかにいた。しかもペンギンのように泳ぐのではなく、まるで空を飛ぶような動きで海中を進む。
　彼女はその生物にとても強い興味が湧いた。

「海のなかに鳥？　すごいわ、飛んでいるの、泳いでいるの？」

　さらに観察しようと注意しつつ、海のほうへ踏み出す。よく見ると体表は羽毛ではない。かといってうろこでもない。その体はすべすべしていそうな印象を受ける。

（どうなっているのかしら……触って確認してみたいわ……）

　ろっこん『友との語らい』で試しに話しかけてみる。

『こんにちは。あなた、鳥なのかしら？』

　話しかけられた生き物はその動きを止めると、美野梨のほうをじっと見る。

『……話しかけているのは君か？』

　美野梨の呼びかけに対して返事があった。反応からして、知能が高い生き物らしい。彼女は敵意が無いことを示しつつ話を続ける。

『そうよ。見たところ鳥のようだけど、食べ物はどうしてるの？』
『主に魚だ』
『呼吸はエラなのかしら？』
『エラはあるが、皮膚でも行う』

　質問をするたびに、やはり一般的な生物とは違うのだと感じる。許可を得て触らせてもらうと、すべすべしつつも、生物らしい感触だった。しばらくやりとりを続け、やがてその鳥は去っていった。

「これは他の生き物にも会ってみたいわね」

　彼女は楽しそうに再び海辺を歩き始めた。

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