寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』｜リアクション

寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』

〇ジャンボ藤棚と姉妹

　ここ最近大学の方でサークル勧誘など色々と忙しかった仙藤紫は、それも一段落してほっとしていた。
　妹の仙藤蒼も、高校入学したてでやはり色々と忙しかったが、それも一段落ついたようだ。
　忙しかった４月も終わり、少しはゆっくりできるかな、と二人して思っていたところに花と緑の博覧会の話を聞いた。
「蒼、どうする？」
「うん、ちょうど落ち着いたところだし、博覧会、行こうよ」

　最初に、近所にあるジャンボ藤棚を訪れた。
　垂れ下がる藤の花の下をゆったりとした気分で歩いていると、蒼が紫の顔を見て言った。
「お姉ちゃんの色だよね、藤の花の色って」

「えっ？　そうかな」
　言われてみれば、藤の花は確かに紫色に近い。
　この綺麗な藤の色と言われればまあ悪い気はしない。
「寝子高はどう？」
　紫は寝子高OGだ。二年前卒業した寝子高を、蒼はどう感じたか聞きたいと思っていた。
「うん、自由で面白いね。あ、そういえばお姉ちゃんに聞きたかったことがあるんだ」
「なあに？」
「高速脱衣って本当に水泳部の伝統なの？」
「……は？」
　鳩が豆鉄砲を食らったような反応をした紫に、蒼は新入生歓迎会で行われた『高速脱衣』のことを説明する。
「……初耳だわ」
「えーっ？　伝統って言われたのに」　
　ちょっと面食らった紫だが、状況を想像するとおかしくなった。
「私の時にそんな伝統がなくて良かったわ」

　その時、風が吹いて藤の花が揺れた。
　花から、花粉が二人に降りかかってくる。
（……なんだか急に眠く……）
　フラッ、とする感覚と共に、紫と蒼の意識が遠のいた。

　紫は、寝子高のステージの袖にいた。
　周りには学生たち……紫自身も、寝子高生のようだ。
「水泳部伝統、高速脱衣、いくぞ！」　
　部長らしき男子が声をかけ、ステージ中央へ出ていく。
　その後に自分たちもぞろぞろと続き……
（え？　私高速脱衣のやり方なんて知らないわよ？！）
　しかしステージの下には観客たちが待ち構えていて、とてもそんなことを言い出せる雰囲気ではない。
「お姉ちゃん、頑張って！」
　なんと最前列に蒼が陣取って、目を輝かせてこちらを見ているではないか！
（ちょっと、蒼、助けてよ！）
　目で訴えたところで通じるわけもなく。
「さあ、行くぞ！　３、２，１，GO！」
　ままよ、と紫は制服に手をかけた……

　そして、気づくと藤棚の下だった。
「……お姉ちゃん？」
　掴んだ服の裾を慌てて離す。
「もしかして高速脱衣の夢見てた？」
「……蒼も？」
　二人は互いに夢の内容を話して、苦笑するのだった。