寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』｜リアクション

寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』

〇ジャンボ藤棚と父の夢

　寝子高２年の愛猫萌々子は、旧市街のジャンボ藤棚へやってきた。
「すごい……藤の花が満開です」
　藤棚の下にベンチがあったので、そこに座って花を楽しむことにした。
（ぼーっと眺めるだけでも心が洗われるようですね）
　頭上の一面の藤を眺めていると、風に揺れた花から何かが降ってきた……

「……あら？　藤の花が消えました」
　驚いて萌々子はあたりを見回す。
「ここはどこでしょうか？」
　ガサガサ。
「えっ？」
　そんな音がしたと思ったら、足元からものすごい勢いで植物が生えてきた！
（これは……ツタ？）

　どんどん伸びる蔓は、萌々子の身体に絡みついてきた。
「……やめて！　放して！」
　腰や脚に強く巻きつかれ逃げられない。
　首に絡みつかれて、絞められそうになり、必死で手に持っていたペンで、ツタに向け空中に線を引く。
　ろっこん『ペンは剣より出でて剣より強し』が発動した。
　衝撃で切り落とされたツタは、動かなくなった。
「助かりました……」
　力を失い地面に落ちた自分を縛り付けていたツタを見ていると。
　なぜだか実家の父の顔が浮かんだ。
　小学生の頃母を亡くした萌々子は、実家では父に怯え無気力な日々を送っていたのだ。
（自分のやり方を推し進めてきた厳しいお父様。まるで私を縛り付けるツタのようで、首に巻きつかれ息ができない苦しい記憶……それしか娘と対峙する方法を知らなかった悲しい人です）
　苦しい日々を思い出し、目を閉じる萌々子。
　けれど、萌々子は目を開き、笑みを浮かべた。　
「私は大丈夫ですよ、お父様。時には見守ることも必要です」
　再びツタが生えてきて、萌々子はとらわれまいと構えたが。
　さっきとはツタの動きが変わっている。
（今度は私の周りをぐるりと囲んで来ました……なんだか守ってくれているよう）
　いつの間にかラベンダーとタンポポの花も生えてきて、リースに添えるようにツタを飾り付けた。
「私は家族に守られている……きっとそうですよね]
　ラベンダーやタンポポは、亡き母や祖母を思い起こさせた。

　気がつけば、萌々子はまた藤棚の下にいた。
「夢だったのでしょう………」
　何事もなかったような景色を見ながら、萌々子は思った。
（まだ少し怖いですが、お父様と話がしたくなりました）